中国・湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大が社会問題化している。観光面でも、中国政府が海外への団体旅行を禁じたため宿泊予約のキャンセルが出始めるなど、影響が広がっている。
業界が深刻に受け止めているのが、奈良県のバス運転手と、同じバスでツアーガイドをしていた大阪市内の女性の感染だ。大阪府などによると、女性は武漢からのツアー客のバスにガイドとして乗り、ツアー客らと行動を共にしていた。バスやタクシー運転手の過敏な反応を心配する向きもある。
従業員の安全確保や感染防止の観点から、マスクの着用を認める動きが出ている。しかし、旅館・ホテル関係者からは「お客さまに表情や声が伝わりにくく、不快に思われる恐れもある」と警戒し、積極的なマスク着用に踏み切れないようだ。
群馬・草津温泉のある旅館の女将は「フロントは何とかマスクなしで対応しているが、調理場には使い捨てマスクを常備している」という。また、O157(腸管出血性大腸菌)やSARS(重症急性呼吸器症候群)の時に減菌薬を入れて加湿する加湿器を買っていたため、それをフロントに置くなど、従業員の健康に気を配る。「フロントに消毒液も置いているが、皆さん何気なく使っている。習慣化している感じ」と捉えている。
また、別の施設の女将は「(接客係に)マスクを着用させるかどうかはケースバイケースだが、お客さまも神経質になっており、理解を求めた上で着用させることも考えていいのでは。従業員の感染を防ぐのも経営者の務め」と言い切る。
消毒液を各フロアに設け、中国語で消毒液を使うよう呼び掛かける張り紙をした旅館も。中国語が話せる従業員は積極的に声掛けするという。
仙台放送によると、宮城県松島町の名所、瑞巌寺では受付や売店などでマスクを着用している。受付には参拝客に理解を求める張り紙を出している。寺関係者は「危機感を持って、未然に防げるものは防ぐ。一般の皆さまにもご理解いただければありがたい」と話している。
各店舗の店員にマスクの着用を自主判断として認めたという百貨店もある。「お客さまへの安心感を考えた」措置だ。
従業員への感染や拡大を防ぐ上でマスク着用は欠かせないと思うが、客に顔を見せ、応対するのが接客の基本とするなら「マスク着用を認めることは難しい」という意見もある。接客業の難しさを改めて感じる肺炎騒動だ。
厚生労働省は風邪やインフルエンザ予防と同様に、手洗いなどの徹底を呼び掛けている。冷静な対応を心掛けたい。
マスク着用が目立つ東京都内。マスクを買い求め、ドラッグストアにも多くの人が