【観国之光 287】かつてない事態 「観光に来ないで!」 本社論説委員 内井高弘


催事の中止も長引き、観光客の足も一段と遠のく(東京・上野公園、4月上旬)

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、観光に対して厳しい視線を向ける動きが強まっている。「観光に来ないで」と言い切る首長もいる。感染者を出したくない、増やしたくないという思いは理解できるし、苦渋の決断なのだろう。

 が、観光が悪しき行為とされることは少なからずショックだ。こんな事態が起こるとは誰が想像しただろうか。

 静岡県西伊豆町の町長は町のホームページで、「観光産業が町の基幹を支えており、本来であれば1人でも多くの方にお越しいただきたいが、今は町民の生命を優先的に守らなければならない。効果的な方法はウイルスを受け入れないこと。断腸の思いではあるが、国の緊急事態宣言に合わせ、1カ月間は来町をご遠慮いただきたい」と発信した。

 町内の観光・宿泊施設、飲食店などが営業しなければ観光客も来ないと判断したのだろう。これら施設に営業自粛を要請。同時に、給付金の支給で損失の一部を補填(ほてん)、休業しやすくした。

 「日本で最も美しい村」連合に加盟する沖縄県多良間村。高齢化率が3割を超え、医療体制も十分でないことなどから、いち早く4月3日に島外観光客の来島自粛を求めた。

 しかし、その後も観光客らが訪れたことから、10日に来島中止要請を出した。村長は「1人でも感染者が出れば島内クラスターが発生する可能性がある」として、踏み込んだ対応を取った。

 飛鳥時代に聖徳太子によって創建されたと伝えられる和宗総本山四天王寺(大阪市)。由緒ある寺だが、その境内には「全お堂を閉堂いたします」と書かれた看板が掲げられている。寺が参拝を断るのは「開闢(かいびゃく)以来」という。観光はもちろん、お墓参りもできない。

 その一方で、「3密の条件に当てはまらない屋外なら大丈夫」と考え、出歩く人もいる。ニュース番組で、神奈川県の人気観光地、江の島周辺が散策などで訪れる人でにぎわう場面を見た。土産物店は人があふれ、周辺の国道も渋滞が発生していた。人の動きを止めるのは容易ではない。

 書き入れ時であるゴールデンウイーク(GW)は期待できない。7都府県を対象に発令された緊急事態宣言は16日に全国へ拡大された。発令期間はGWが終わる5月6日まで。

 拡大された背景にはGWにおける人の移動を抑制する狙いもある。「連休中の外出を我慢できるかどうかが鍵を握る」と政府はみる。

 自粛によるストレスを少しでも発散したい気持ちは分かるし、業界に籍を置く者として、観光地が寂しいのは心が痛い。しかし、である。ここは我慢するしかない。
     

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