新型コロナウイルスや豪雨が観光業に深刻な影響を及ぼしている。起死回生策と期待された「Go Toトラベル」事業も迷走気味で、業界を取り巻く環境は依然として厳しい。
そんな中、明るい話題といえるのが北海道白老町に7月12日開業した民族共生象徴空間(愛称・ウポポイ)だ。アイヌ文化を学ぶ拠点であるが、政府は北海道観光の目玉としたい考えで、コロナ禍で打撃を受ける道観光業の復活が期待されている。
11日の記念式典であいさつした鈴木直道道知事の言葉からもそれはうかがい知れ、知事はウポポイの意義を強調した上で「本道の魅力を広く発信できるチャンスでもある。未来につながる宝として、オール北海道で大切に育て、世界にアピールしていきたい」と抱負を述べた。
ウポポイはアイヌ語で「(大勢で)歌うこと」を意味する。生活用具や工芸品を展示する「国立アイヌ民族博物館」、伝統的なコタン(集落)を再現した「国立民族共生公園」、先祖の遺骨を納める「慰霊施設」で構成される。
中核施設の民族博物館は道内初の国立博物館で、1万点を超える貴重なアイヌ民族の資料を収蔵し、約700点を展示する。見応え十分だ。
アイヌの人々は先住民族としての権利を侵害され、差別を受けてきた。ウポポイはアイヌ文化の復興拠点となるが、開業によって先住民族としての権利回復が進むかどうかはまた別の問題だ。
本紙コラムでおなじみの石森秀三・北海道大学観光学高等研究センター特別招聘(しょうへい)教授(北海道博物館館長)は、ウポポイについて「単なる観光施設とみなすことなく、アイヌ民族の復権を支える施設であり、近代文明の功罪を冷静に考え直す場とみなすべきであろう」と指摘する。
ウポポイは当初、4月24日開業予定だったが、新型コロナ感染拡大の影響で2度にわたって延期された。コロナ禍に収束の兆しが見えないこともあって、当面は事前予約制とし、入場を制限する措置がとられている。このため、年間入場者目標100万人の達成は難しいようだ。
開業1週間(12~18日)の入場者数(有料ゾーン)は7578人だったという。事前予約制を知らずに訪れる人もいたようで、周知不足が課題となっている。
ウポポイの魅力の一つは体験学習ができることで、さまざまなメニューを用意し、教育旅行先として誘致に力を入れている。
コロナ禍で集客面では苦戦しそうだが、観光のキラーコンテンツであることは間違いない。道観光の起爆剤とするためにも積極的な情報発信、アピールを期待したい。
アイヌ伝統の古式舞踏。重要無形民俗文化財に指定されている