【観国之光 381】安倍元首相が非業の死 観光立国の意志継承を 本社論説委員 内井高弘


福島県を訪れ、温泉地や仮設住宅などを視察する安倍首相。土湯温泉では旅館女将のおもてなしを受けた(2014年5月中旬)

 8日、安倍晋三元首相(67)が参院選候補者応援のため訪れていた奈良市内の路上で銃撃され死亡した、というニュースは日本中を震撼させた。国政選挙中の凶行だけになおさら注目を集め、「政治テロか」という思いもよぎった。

 どうやら政治的な背景はないようだが、暴力によって言論を封殺することは決してあってはならない。強く非難する。

 それにしても、銃規制がことのほか厳しい日本でこうした事件が起きるとは。山上徹也容疑者(41)は「インターネットで火薬を購入した」などと供述しており、ネット社会の底知れぬ闇の一端を浮かび上がらせた。

 安倍元首相は観光業界にとっても忘れられない政治家の1人といえる。独自の経済政策「アベノミクス」は財政出動、金融緩和、成長戦略を3本の矢とし、成長戦略の柱の一つに「観光立国」を掲げた。

 2012年12月の第2次安倍政権発足後の初の通常国会施政方針演説では、海外の成長を取り込むという文脈の中で「観光立国」の推進を表明。観光業界も歓迎した。

 とりわけ、訪日外国人(インバウンド)の受け入れには熱心で、ビザ取得要件の緩和や免税手続きの簡素化、民泊の解禁など規制緩和を進め、態勢整備に努めた。

 その結果、訪日外国人は右肩上がりで増え、19年には3188万人が日本を訪れ、その消費額は4兆8135億円となった。「全国津々浦々、地方創生の核となる、たくましい一大産業が生まれた」(19年1月の施政方針演説)と成果を強調した。

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