前回に引き続き、中規模旅館・ホテルがさまざまな業態戦略をとった時の損益シミュレーション結果を示しながら、どの戦略が高収益体質につながるのか説明しよう。
6、国内・海外ツアー二兎獲得戦略
国内客(海外FIT客含む)に加えて海外ツアー客も多数受け入れるという戦略である。国内客・海外ツアー客の比率は5対5、海外ツアー客の単価は1泊2食1万円前後、1室あたり宿泊者数2人、客室稼働率80%とする。
総投資20億円(土地代含む)、客室数50室の中規模旅館・ホテルがこの戦略をとった場合の償却前利益は約4千万円、借り入れ返済後の収支は約▲8千万円と悪化することが分かる。
なぜ国内客・海外ツアーの両方を集客すると採算が悪化するかというと、国内客に比べて客室単価が伸びない一方で、料理やアメニティ、リネン、送客手数料などの経費は国内客並みにかかるからである。
この状況は大規模旅館でも変わらない。客室数100室の大規模旅館で二兎獲得戦略を取った場合の償却前利益は約2億円、借り入れ返済後の収支は約▲4千万円と想定される。赤字幅は縮小するものの事業としては成り立たないことが分かる。
7、海外ツアー特化戦略
海外ツアーのみを受け入れるという戦略である。1泊2食9500円、1室あたり宿泊者数2人、客室稼働率80%とする。
料理やアメニティなどは最低限のグレード、セルフサービスを主体としてスタッフ数も最小限とする。一般的な中規模旅館・ホテルがこの戦略を取った場合の償却前利益は約4千万円、借り入れ返済後の収支は▲7千万円と悪化することが分かる。稼働率100%でも収支をプラスにすることはできない。
二兎獲得戦略、海外ツアー特化戦略を成り立たせるためには、中古物件を買収するか、返済が進んで借入残高の少ない築古物件であることが条件となるだろう。
総投資額の目安として坪単価60万円、総投資(借入残高)で6億8千万円以下に抑えれば、返済後の収支をプラスにできると想定される。競合館がこの戦略を取っているからといって模倣すれば成功するわけではない。収支をプラスにできる条件を自館が満たしているか確認してから取り組もう。
今回もエクセルで作成した業態別損益シミュレーションを読者サービスとして無料でご提供する。先々週来、過去に例を見ないほど多数の資料請求をいただいているので無料提供を継続したい。送付を希望される方は、aokiy@y-bc.co.jpまで「業態別損益シミュレーション希望」とタイトルをつけてメールを送ってほしい。
(山田ビジネスコンサルティング事業企画部部長)