前回に引き続き、老朽化する旅館・ホテルが取るべき指針について、ケース分けしながら説明しよう。取るべき指針を決定する要素は、(1)今後の業績見通し(2)借入金残高(3)建物の耐用年数―である。
今後の業績見通しは、今後十数年にわたって安定的な償却前利益を獲得する見込みがあり、商品力維持に必要な再投資、借り入れ返済が行えるかどうかを示す。借入金残高は、借入金に対するキャッシュフローの割合(償還年数)が現実的な範囲であるかどうかを示す。建物の耐用年数は、商品価値を維持しながら、あと何年営業できるかを示す。
4、業績良好で借り入れが少ないが事業承継までに耐用年数が到来する
現時点で建物の耐用年数に余裕があっても、次世代経営者が承継するまでに老朽化問題が発生する場合には、後継者の資質を見極めながら方針を決めよう。
大規模改装や建て替えに伴う莫大な借入金は、後継者が返済していくことになる。本人に経営能力や意欲が乏しければ、精神的な負担が高まり余計な苦労をかけることになる。大規模投資を行うにしても、最小限度の額にとどめたり、難易度の低い業態に切り替えたり、事業規模を縮小したりなどの工夫を行うことが望ましい。
後継者の事業意欲が旺盛であれば、投資プロジェクトの中心人物として参画してもらった方が良い。コンセプトやデザイン、運営方法は、世代によって嗜好が大きく異なる。先代の好みを踏襲した旅館・ホテルが将来のお客さまに支持されるとは限らない。後継者の考えを頭ごなしに否定するのではなく、能力が発揮できるようサポートすることが望ましい。
大規模投資を行うタイミングは耐用年数だけで判断するのではなく、金融情勢を注視して決めよう。現在は旅館・ホテルのマーケットが堅調に推移していることもあり、金融機関から借り入れしやすい環境にあるが、この状況が長く続くとは限らない。
実際に、平均稼働率の低下や不動産価格の高騰が見られた地域では融資が出にくくなっている。将来投資したい時に融資が出ず、大規模改装や建て替えを断念せざるを得ない状況になる可能性がある。金融機関から良い融資条件で提案があれば、大規模投資を前倒しするのも一案だ。
(アルファコンサルティング代表取締役)