旅館・ホテルを含む観光業のM&A(合併・買収)はかつてないほど広がりを見せている。後継者難など現実的な問題への対応が迫られるケースが増加したことに加えて、オーナー経営者の価値観の変化、M&A仲介業者の隆盛、金融機関のフィービジネスへの積極化、審査基準の緩和などが要因と考えられる。
皆さまの会社にも多くの打診が寄せられていることだろう。事業拡大、発展のチャンスとなる成功事例もあるが、中には本業の業績悪化につながった失敗事例も出てきている。信頼する仲介者から紹介された案件だからといって油断してはいけない。
今回コラムでは、M&Aを実施するに当たり失敗しないためのポイントを紹介しよう。
1、一目惚れしない
リゾート地にある旅館・ホテルはハイシーズンに行くと大変魅力的に見える。海がとても奇麗だったと、いわば一目惚れで購入を決定したオーナー経営者が、買収後赤字が拡大し損切りせざるを得なくなったケースが実際にある。
あるオーナー夫婦が売却希望の出ているリゾートホテルに行ったところ、砂浜がとても美しく、また海水浴客の入り込みも多く活況だったこともあって買収を決意した。
しかし、買収後になって設備の老朽化が激しく、営業継続するためには多額の更新投資を必要とすることが発覚した。また、オフシーズンは想像以上に宿泊客の落ち込みがひどく、資金繰りに窮するようになり、赤字補填(ほてん)のための役員貸付が膨らんだ。
銀行と仲介会社の熱心な勧めもあり、売主からの提示条件を丸呑みして買収したものの、もともと経営している旅館にも悪影響を及ぼすようになったため数年で手放すことを決断した。以前、物件を勧めてくれた仲介会社に連絡したところ、市況が悪化し、当初の購入価格の半額まで下げないと買い手は見つからないだろうとの回答があった。
このような失敗談は世に広がることはないが、水面下で実際に起きていることである。事業拡大は直感も大切だが、即断即決はリスクが伴う。信頼できる幹部や専門家を同行させて冷静な判断をしたい。
(アルファコンサルティング代表取締役)