【逆境をチャンスにー旅館の再生プラン 620】お金をかけずにできる生産性向上7 青木康弘


青木氏

 前回に引き続き、お金をかけずに日々の業務を効率化する方法を紹介しよう。観光業でもDXが注目されるようになったが、高額なシステム導入費用がネックとなり取り組みに躊躇(ちゅうちょ)してしまう。予約業務は効率化したが、日々の業務は昔のままで全く効率化が進んでいない施設は少なくない。

 (8)マルチジョブにこだわりすぎない

 旅館・ホテルの勤務形態としてマルチジョブが推奨されているが、必ずしも生産性向上につながるというわけではない。施設の特徴を見極めて導入するか検討したい。

 マルチジョブとは、1人のスタッフが時間帯によって持ち場や業務を変えていく働き方を指す。導入に向いているのは、スタッフの業務習得能力が高い、パート・アルバイトを集めるのが難しい、スタッフの賃金水準に大きな差がない、といった特徴を満たした施設である。

 例えば、客室係がフロントや売店の業務を容易に習得できるのであれば、マルチジョブの導入はたやすいが、習得がおぼつかなかったり、他部署の仕事をすることに抵抗感を示したりする場合には、導入は難しい。客室係のみ成果型制度をとっているなど他部署と賃金制度が異なる場合も同様だ。

 どうしても導入したいということであれば、客室係の廃止や新規採用の積極化、賃金制度の見直しなど抜本的な対策が必要だ。

 (9)チェック業務を減らす

 日々の業務の中で実施されるさまざまなチェックや点検、その後の報告資料の作成を減らすだけでも業務効率化になる。例えば、客室の清掃後のチェック(インスペクション)、温泉の温度チェック、印紙・商品券のチェック、手持ち金庫の現金チェックなどだ。業務によっては1日何度もチェックすることがあり、時間と人手を要するものとなっている。

 このようなチェックは開業時から行われていたわけではない。お客さまのクレームやスタッフの不正などをきっかけとして導入されたケースが多い。しかし残念なことに根本的な解決手段とはなっていない。

 現状の業務を棚卸しして、チェック業務が有効に機能しているか、問題解決の手段として最善の策になっているか確認し、効果がなければ思い切って廃止することをお勧めする。

 (アルファコンサルティング代表取締役)

 
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