【逆境をチャンスにー旅館の再生プラン 682】年収の壁対策の影響 青木康弘


 厚生労働省より「年収の壁」対策として政策パッケージが公表された。年収の壁とは、パートアルバイトの年収が一定の額を超えると、住民税や所得税、社会保険料などの税負担が増加し、手取り年収の減少を招く場合があることから、就業時間を抑制してしまうことを言う。表向きは、パートアルバイトの労働意欲向上を後押しする施策であるが、パートアルバイト比率の高い旅館・ホテルにとっては大幅な経費増になる可能性があるので注意が必要だ。

 その背景にあるのが、社会保険の適用拡大である。フルタイムの従業員数と週労働時間がフルタイムの4分の3以上の従業員数の合計が51人以上の企業は、2024年10月以降、社会保険の加入対象者が拡大される。51人以上というと、料飲提供する中規模以上の旅館・ホテルの多くが該当するだろう。

 対象となった企業は、週の所定労働時間が20時間以上、所定内賃金が月額8.8万円以上、2カ月を超える雇用の見込みがある、学生ではないという要件を全て満たしたパートアルバイトを社会保険に加入させる必要がある。

 どのようなスタッフが適用拡大の対象になるか試算してみよう。時給千円、交通費月3千円、1日4時間、週5日働いている場合、賃金は月額8・9万円で加入対象となる。時給1200円、交通費月5千円、1日4時間、週4日働いている場合、賃金は月額9.5万円となるが、週の所定労働時間は20時間未満であるため加入対象にはならない。このことから推察すると、最低賃金が比較的低い地方都市で、人手不足により1人当たりの勤務時間の長い旅館・ホテルが対象になりやすいことが分かる。

 加入対象となったパートアルバイトの社会保険料の半分は会社負担だ。地域によって異なるが、賃金総額のおおむね14%~15%程度、経費負担が増加することになる。2023年の全国の最低賃金平均は1002円なので、実質は1142円となる。2013年の最低賃金平均は764円だったので、パートアルバイトの賃金はこの10年間で1.5倍になったと言える。

 スタッフの待遇が良くなるのは、優秀な人材を必要とする業界にとって望ましいことであるが、会社にとってコスト増は悩ましい課題だ。一層の省人化、DX推進が求められるだろう。

 (アルファコンサルティング代表取締役)

 
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