【逆境をチャンスにー旅館の再生プラン 694】高付加価値経営への処方箋〈1〉 青木康弘


 政府の支援制度が追い風となり、この数年間はブームと言っていいほど、全国のさまざまな地域の旅館・ホテルが高付加価値化に向けたリニューアル工事を行った。しかし、期待されたほどの客室単価や稼働率の向上が見られないという声もある。本コラムでは、発生しうる課題と、設備投資の効果を最大化するための改善策ついて紹介したい。

 (1)改装した客室の売れ行きが悪い

 改装した客室の販売が振るわない一つの原因として、これまでと異なる顧客層をターゲットにしていることが挙げられる。例えば、中価格帯のファミリーや団体客を主な顧客層としていた施設が露天風呂付き客室を新設した場合、このような課題に直面しやすい。

 改善策として取り組みたいのが、新規客室を全面に打ち出した施設全体のコンセプト、プロモーションの実施である。新規客室の洗練されたコンセプトを施設全体に浸透させることで、イメージアップを図ることができる。ただし、新規客室と一般客室との間にグレードの差が大きすぎると、お客さまの期待を過度に高めることになる。実際に宿泊した際に落胆させてしまい、悪い口コミを書かれる可能性があるので注意が必要だ。

 予算が許すならば、一般客室も新規客室のコンセプトに合わせて改装することが望ましい。新規客室と整合性のあるコンセプトにすれば、一般客室の人気はより高まるだろう。予算の制約により一般客室の改装が困難であれば、新規客室は必要以上の高単価路線は目指さずに、地域の他館よりも利用しやすい料金設定とするか、宿泊定員を増やし4名以上のグループ向けの客室として販売することをお勧めする。

 多くの旅館・ホテルでは、狭い和室や2名1室のツインタイプの客室が主流であり、3名以上のファミリーやグループ客にとっては利用しづらい。露天風呂を備えた新規客室は、空間にゆとりのある間取りとすることが多いため、2名定員の客室を4名に増やすことは不可能ではないだろう。

 せっかく大金を投じて改装した新規客室が低稼働で持て余している状況であれば、個人客向けに定員増を検討することをお勧めする。一般客室よりも高い宿泊単価が設定できる上に定員も多いことから、客室単価は当初計画以上の実績を上げることができるだろう。

 (アルファコンサルティング代表取締役)

 
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