【逆境をチャンスにー旅館の再生プラン 747】事業承継を成功させるための実践戦略(4) 青木康弘


 後継者が新たな経営者として社内外に認識されるためには、自らの経営方針、将来計画を明確に打ち出し、着実に実行することが欠かせない。どれほど後継者に意欲があり、改革への意思が強くとも、現場の幹部やスタッフが従来のやり方に固執していては、新たな方針を組織に浸透させることは難しい。こうした状況を打開するためには、後継者自らがリーダーシップを発揮し、組織の進むべき方向性を明快に示す必要がある。

 経営方針の発表は、就任直後に行うのが理想ではあるが、半年から1年程度の準備期間を設けるという選択も考えられる。この期間中に幹部や現場スタッフとの信頼関係を構築し、組織の実情を把握したうえで段階的に改革を進めることで、社内の理解と協力を得やすくなる。特に、大規模な変革を伴う場合には、後継者のビジョンに共感し、その実現を支える人材の存在が不可欠である。このような協力者を見極めるには、個別面談などを通じて関係性を深めていくことが有効である。

 先代経営者の影響力に対しては、十分な配慮が必要である。たとえ形式的には経営から退いていたとしても、先代が旅館・ホテルに顔を出すことで、幹部や現場スタッフの意識に少なからぬ影響を及ぼす可能性がある。何気ない一言が、「そこまで改革を進める必要はないのではないか」といった誤ったメッセージとして受け取られ、後継者の方針が形骸化するおそれがある。そのため、先代は無意識のうちに後継者の足を引っ張ることのないよう、現場との適切な距離を保つ姿勢が求められる。

 事業承継を円滑に進める上で、デジタルツールを活用した情報管理の効率化も欠かせない。特に人脈の継承においては、名刺管理アプリなどを活用して先代のネットワークをデータベース化することで、後継者がスムーズに関係性を把握し、活用することが可能となる。近年では、クラウド型のCRM(顧客関係管理)システムを導入し、経営に必要な情報を一元的に管理する手法が広まりつつある。こうしたツールの導入により、後継者が迅速かつ的確に経営判断を下すための基盤を整えることができる。

(アルファコンサルティング代表取締役)


(観光経済新聞2025年3月31日号掲載コラム)

 
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