新卒者のリクルーティング。広告の世界では募集パンフレット制作などを依頼されることが多いが、並行して採用試験の問題作成と採点、入社後の能力開発教育を数社から数年間請け負ったことがある。
広く採用されている採用試験は人材評価企業によるプログラムで、常識や言語、数理、論理、語学など「基礎的な能力」、性格や気質、意欲、態度、行動傾向、ストレス傾向など「パーソナリティ」、分類や照合、計算、読図、記憶など「事務能力」を推し量る採用試験や、「言語」「数理」「時事社会」の分野ごとに能力を推し量る採用試験などがポピュラーだが、オーナー社長の意向もあって、会社独自の採用問題を作ることになった。
どんな内容にするのか、面接を担当する方々と協議を重ねていく中で浮かび上がったのは「理解力の有無」だった。面接では分かりえない、という過去の反省からのテーマだった。
一般常識問題や一般教養問題は新卒者が事前に対策を練ってくるし、一夜漬けの知識など入社してから役に立たないという意見もあり、試験問題を理解力を推し量る問題を中心として、面接もその解答を得てから行うことになった。
さまざまな問題の中で評価が高かったのは記述式問題だった。内容は経済紙・誌の超難解な記事を全く段落がないようにベタ打ちし、その内容を要約して簡略に記せ、というものだ。
理解力というものは一朝一夕に身につくものではないから、基礎的な能力が分かる。読解力、分類・分析力、論理的な思考、語学力なども浮き彫りになる。書物に多く触れてきたかどうかは一発で分かる。問題には数字を含むため、数理面への意識も分かる。
字を見れば性格や気質が想像がつく。筆跡の運びを見れば行動形態はもちろん、生活態度や場面場面での対応力、ストレス傾向なども見えてくる。今どんな暮らしをしているのか、親元にいるか一人暮らしをしているか、室内が整頓されているかどうかなども想像できる。
採点に際して思い浮かんだことを、解答用紙の欄外にどんどん記入していく。多分、この人はこのような人ではないか…と。
面接官はそれらを見ながら質問する。ありきたりの質問ではなく、その新卒者に向けた突っ込んだ内容だ。すると試験の解答と面接での評価が面白いように一致することが分かり、人物評価につながった。
旅館・ホテルでは中途採用が多いが、一方では次世代の人材を育てていかなければならない。面接が中心の採用状況かもしれないが、こんな入社試験を考えてみてはいかがだろう。