【道標 経営のヒント80】本質を見抜く力を身につけたい 福島規子


 最近、読み直したビジネス書に興味深いエピソードがあった。

 ニューヨークの地下鉄に乗っていると1人の男性が2人の子どもたちを連れて乗り込んできた。子どもたちは、大声で言い争い、物を投げ傍若無人に振る舞うのだが、著者の横に座った父親は目を閉じ、状況には全く気付いていないようだった。

 乗客たちは我慢し、眉をひそめているが誰も注意しない。著者は、親として何の態度もとろうとしない彼の態度が信じられず、苛立ちを抑えようにも抑えきれなくなり精一杯穏やかに声をかけた。「お子さんたちが皆さんの迷惑になっていますよ。少し、おとなしくさせていただけませんか」

 すると、父親は目を開け「ああ、そうですね。どうにかしないといけませんね…。病院の帰りなんです。1時間ほど前、あの子たちの母親が亡くなって…これからどうしたらいいのか…あの子たちも動揺しているんでしょう…」

 その瞬間の気持ちを想像できるだろうか。著者は、突然、子どもたちの様子がそれまでとは全く違って見え、考えも感情も行動も一瞬にして変わってしまったと言う。

 苛立ちは消えてなくなり、態度や行動を無理に抑える必要がなくなると同時に男性の苦しみに共感し、同情と哀れみの感情がとめどなく溢れでてきたという。

 パラダイムとは、物の見方、あり方のことを指す。人は世界をあるがままに見ているのではなく自分自身が条件づけされた状態、つまり人格や経験によって決められたレンズを通して世界を見ているにすぎない。

 相手と意見が合わないと、相手のほうが間違っていると瞬間的に思ってしまうように、物の見方は人によってさまざまだ。どちらの意見が間違っているということではない。どのような見方でも、それが自然の法則や倫理観などの原則に則しているかどうか、そして、その本質を見抜くことが重要なのではないだろうか。

 ところで筆者は本質を読み取るサービスを「直感」ではなく「直観」の漢字をあて「直観的サービス」と名付けたが、前述の原則を重視するという点で類似性がある。

 この直観的サービスに関連する小さなパラダイムシフトは宿泊業界でも起こっている。

 例えば、ホテルでは、以前、連泊客のシーツは毎日変えるのが当たり前だった。しかし、最近では環境保全の観点から、連泊客のシーツを変えないホテルも増えてきた。

 「原則」に則った見方、考え方、行動と言えよう。見方、考え方が変われば行動が変わる。

 2017年は、本質を見抜ける力を身につけたい。なお、冒頭のエピソードは「7つの習慣」(スティーブン・R・コヴィー著、翻訳ジェームス・スキナー)の一節。

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