今回からこのコーナーで「設計・建築」を担当させていただきます。
40数年前に大学を卒業して入社した設計事務所で初めて担当したのが温泉旅館で、以来旅館の設計に携わってきた。高度成長期、バブル期とその後の低成長期を経て現在まで、旅館業界を設計者の立場から見てきた。
東日本大震災の節電活動をきっかけに公益社団法人国際観光施設協会でエコ・小活動に参加した。「エコ・小」とは旅館を小さなエネルギーでエコロジカルに運営する活動をいう。今までに100軒ほどの旅館の調査指導をしたが、調査に入った旅館は高度成長期までに建設された建物がほとんど。
当時の設計の考え方は10帖の客室に5人泊まり、大浴場は一度に大勢のお客さまが入浴し、食事は宴会場で一斉に食べることを想定していた。しかし、現在は個人客が中心となり、1室2~3人になり、チェックインも三々五々でピークが分散している。
客室などの内装は個人客向けに改修が進んでいるが、設備システムは過大なまま手を付けられていない。またリゾート地にあるため稼働率が低いのだが、中央式空調では稼働率の変動に対応できない。大浴場の循環ろ過ポンプもお客の数が多くても少なくても常に1年中一定に回っている。
これらのことからエネルギーを浪費し、1人当たりの水道光熱費が売り上げの10%前後となり経営を圧迫しているケースが多く見受けられる。
運用面で三つの問題があると考える。(1)水光熱費をどのくらい使っているか把握出来ていない(2)設備を理解して管理できる人がいない(3)設備システムに欠陥があるか、間違った運用をしている―だ。
給湯配管に流量メーターを設置して時間ごとの流量を計測すると、食器洗浄をしている時間帯や深夜で急に使用量が増える。食器洗浄機で十分に洗えるのだが、お湯を流しながら前洗いすれば膨大なお湯を無駄にする。また、浴槽の清掃後に真湯で湯張りをすれば温泉成分が薄まるばかりでなくお湯の無駄遣いになる。外注に任せて管理できていないのでエネルギーとともに、人件費も無駄にしている。
30室、年間宿泊数2万人の旅館で、1人当たりの水光熱費が1350円とすると年間の水光熱費は2700万円となる。水光熱費が千円に下げられれば年間700万円浮く。実際に1千万円以上減らした旅館もある。
「エコ・小」活動で節減できたお金は純利益となり経営改善の資金となる。これを「美しい利益」と言う。
※ささやま・しげる=横浜国大卒。観光設計勤務を経て、2001年8月佐々山建築設計設立、社長。一級建築士、一級造園施工管理技士。国際観光施設協会理事など兼務。66歳、東京都出身。