昨年から今年にかけてさまざまなホテル・旅館が相次いでオープンしている。仕事柄、それらの宿のホームページを見る時間を割いているが、宿泊シーンが驚くほど多様化している。そこで感じる何らかの新しさを、日本のおもてなしを基本にしてきた宿のあり方と較(くら)べると全く異質なもののような気がする。広告マンとしての視点もちょっと揺らいでいる。
例えば施設をリニューアルする際、旧来は客側の宿泊形態の変化や過ごし方に適応する形で改善がなされるのが通常だったが、新たにリニューアルあるいは誕生した宿をみると、運営側の世界観や独自のコンセプトが色濃く投影されている。関係者の言を借りれば、ホテルのトレンドはホテルではなく、ゲストハウスという概念だという。単なる宿泊の場ではなく、「空間的な豊かさ」を備えたカルチャー系の宿泊空間が世界中で受け入れられているという。前回この欄で鎌倉にあるそば屋を備えたユースホステルを紹介したが、確かにそうなのかもしれない。
現に、日本各地にユースホステル的な発想を払拭(ふっしょく)したゲストハウスが誕生し、世界から訪れるバックパッカーたちを魅了している。こうした潮流は投資の世界にも広がり、ファンドや異業種からのホステル経営参入を呼ぶだけでなく、家業としての宿のあり方にも大きな影響を及ぼしているという。
一方で新たなホテルに見られるのが、空間を通して生活の新しいあり方を提案しようという哲学を持った「ライフスタイル系」と呼ばれるホテルだ。地元のクリエイターとコラボしながら地域色を反映したデザインを取り入れたり、書店やカフェ等と宿泊施設を融合させたり、旅行客だけではなく地域の人も気軽に訪れてくつろげるパブリックゾーンを設けたり、今までに経験のない空間づくりが目を引く。サードプレイスとしての機能も兼ね備えた施設も増えているという。都内のホテルにも足を運んでみたが、そのバラエティと斬新さには実に驚く。
また、ホテルブランドの観点からは、空間づくりとともにジェネレーションの取り込みも大きなテーマだそうだ。1990年代生まれの「ミレニアル世代」、それに続く世代を「ジェネレーションZ」と呼ぶが、これらの世代の多くはインターネットの黎明期から今日のマルチデバイス全盛期までIT環境に囲まれて成長しているため、特にオンラインからの情報を優先する。彼らにどんなブランドイメージをもたらすか、そんな視点も重要な戦略になっているという。いやはや面倒な時代になったものである。