旅館は増築を重ねて配管系統が複雑になり、経営者の世代交代が進む中で設備システムの引き継ぎが不十分になっています。専任の技術者が不足してボイラーも適切に運転できず、地元の設備業者もシステムに対する知識がなく、ポンプが壊れれば交換するだけです。
近年、観光は成長産業といわれ、旅館は地域経済を支えるといわれますが、最適な状態からは程遠いシステムが無駄なエネルギーを生み、生産性が低く、その足元は不安定です。
SDGsでサスティナブルな経営が求められ、温室効果ガスを2030年に2013年比46%削減するにはストックを適正に運用する必要があります。今はITやAIなどの新技術に目が行きますが、世の中を動かしているのは従来からある技術で、それを最適に維持しなければ世の中は動きません。
ストックを生かすにはメンテナンスをきちんとしなければならないのですが、それを支える技術者が不足しています。大学でも機械設備に進む生徒がいないので教育も不十分になり、設備設計者のなり手がなくて困っています。組織にいる若い人は新しい仕事に振り向けられ、効率の悪いストックのメンテナンスに関わっている暇がありません。
エコ・小委員会の中心メンバーは高齢者で、今のうちに旅館のシステムを最適化する道筋を付けておかないと5年後には立ち行かなくなると心配しています。
そこで設計、施工、製造などの関係企業をリタイアした技術者に参画してもらい、調査↓検証↓改善提案↓改善計画↓改善工事を推進する技術支援業務を地域でできないかと話し合っています。それには宿泊業界との連携、国からのバックアップが必要ですが…。
五木寛之の「孤独のすすめ」の中で、回転を上げつつ、減速して生きる、それこそが現代人のテーマではないか、減速の時代にあって高齢者の生き方は精神活動を高めながら自然にスピードを制御するという発想、と書いています。
私が親しくしている高齢者は皆さん精神活動が高めですが、経済活動からは一歩下がっています。しかし戦後の高度成長期、バブル期を経験し、今ある建築技術を構築し、熟知している世代で既存ストックに対する知識は若い人より豊富です。
貴重な日本の地域文化を守ることにつながる既存ストックを支える取り組みに、高齢者の活躍する場を造りたいと思っています。