【道標 経営のヒント 323】ワーケーションが救いの神になるか 宮坂 登


 旅館・ホテルのリニューアルに際してのトレンドといえば、「ワーケーション」である。コロナ禍でやむなくテレワークを強いられるのならば、インターネットでつながればどこでも働けると考える人に対して、その場を提供しようと考える旅館・ホテルの立場も十分に理解できる。悪化した経営環境への一つの打開策であると思う。事実、素晴らしいコワーキング空間を数多く目にする。あまのじゃくな筆者は旅先でまで仕事をしようなどとはことさら思わないが、旅先でテレワークしている人の映像や思い切って移住してしまった人のニュースを見るたびに、どこか違和感を覚える。バラ色ばかりではないのだ。

 ある知人はコロナ禍で勤務先の業績が悪化して収入がダウン。勤務先の社長に「お願いだから」と自宅でのテレワークを余儀なくされ、朝から晩までズームで取引先と打ち合わせする毎日に精神的にも消耗しきっている。金銭的にとても旅行になど行く余裕はない。ノマドやフリーランスの人は企業の縛りもなく、時間的余裕からいつでもワーケーションができると思われそうだが、旅先でワーケーションをする人などほんの一握りにすぎないという。会社勤めの場合は、会社にワーケーションの制度があることが大前提になる。事実、JTBが2020年に行ったアンケートによれば、制度がある企業はほんの数パーセント。オミクロン禍などで出掛けられない現在の状況を考え合わせれば、ちまたで言われるところのワーケーションメリットを享受できない人の方が多いはずである。だから旅館・ホテルには、早まってくれるなよ、と言いたい。ワーケーションルームの有無に振り回されるなと。多額な設備投資に見合うだけの収入が得られるのか、と危惧してしまう。非日常なくつろぎを演出することこそが宿の役割、使命なのである。

 ワーケーションという言葉は、もともとは政府や地方自治体の「お試し移住のためのイメージアップ作戦」の言葉なのだ。過疎対策の一環でもある。そこに「観光」の意味合いは含まれていない。素晴らしい景勝や宿に備わる多彩な施設・サービスをエンジョイしながらビジネスと向き合える空間があることは素晴らしいことである。だがそれのみでは商売は成り立たない。選択肢になるというだけである。コロナ禍後の施策をまず考えるべきだ。ワーケーションとは今後廃っていく言葉や概念であると、ある有識人が語っていた。その「場」を旅館・ホテルとするならば、ワーケーションに代わる呼び名があってしかるべきだということも。

 
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