【道標 経営のヒント 359】「星」の価値 宮坂 登


 素材の質、調理技術の高さと味付けの完成度、独創性、コストパフォーマンス、常に安定した料理全体の一貫性。五つの観点から審査されるのがミシュランガイド。星の基準は料理のみで、店の内装やサービスは星の対象ではない。この基準は世界共通で、職業や身元を隠した少数の調査員が1軒1軒、一般客を装って食べ歩いて調査し、評価を下していく…。

 そんな徹底した秘密主義がしばしば語られるところだが、発行元のミシュランタイヤのあるフランスでは、その方法で料理の正当な評価ができているのかどうか懐疑的なメディアもあるそうだ。

 星を獲得した店の中にも名誉やステイタスは感じつつも星を拒否する店があるという。懇意にしている日本料理店の店主にミシュランの星に選ばれたい?と尋ねたら、「調査員が客として紛れ込んでいるなんて思いもつかないし、その調査員の舌が本物かどうかも分からない。ましてや、いつ来るかも分からない調査員を意識しながら調理するなんて冗談じゃないよ」と嗤(わら)う。

 星、といえば「5つ星の宿」。長く誌面編集に関わっている立場上、思うところが多い。変わらぬコロナ禍であっても、大手新聞やネット上の旅行会社の広告に「5つ星の宿に泊まる?」という商品告知を目にすると、創刊以来16年の歳月を経てようやく市民権を得たのではないかと感じるし、編集開始を目前に気持ちが引き締まる。

 5つ星の宿に選ばれることはミシュランの星どころの評価ではないと思う。衆知の通り、5つ星の宿は延べ5年・5回にわたって「人気温泉旅館ホテル250選」に入選した宿に贈られる称号である。選ぶのは全国の旅行業など旅行のプロフェッショナルたちで、ミシュランのような顔の見えない調査員ではない。回答していただくアンケート項目は「施設・料理・風呂・サービス・雰囲気」の5項目で、ミシュランのような偏りはない。そこにプロとしての経験、知識、見識が高評価となって積み重なる。陰には旅行者の存在もある。

 そのアンケートを集計した上で、観光経済新聞社と観光関連8団体による厳正なる審査を経て5つ星の宿が紙面発表される。まさに選ばれた宿、選び抜かれた宿である。だから、単なる本のタイトルとは思ったこともない。

 5年・5回選ばれることの大変さは並大抵の努力ではない。5つ星の宿の方々に敬意を込めて、何年か前の誌面に「選ばれること、選ばれ続けること。その難関に挑戦し続ける宿がある」と書かせていただいた。その思いのまま新たな編集に向かおうと思う。

 (連載「道標 経営のヒント」は今週号をもって終了です)

 
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