【駅メロとわずがたり31】JR一ノ関駅「夕暮れ時はさびしそう」/NSPの聖地 藤澤志穂子


 JR一ノ関駅は、ユネスコの世界遺産に登録された中尊寺や、国の名勝に指定された渓谷「猊鼻渓」など観光名所の入り口だ。ただ駅前のカフェで聞くと「『NSP』目当ての女性のお客様も良く来られます」という。「NSP」(ニュー・サディスティック・ピンク)とは、地元にある一関工業高等専門学校で結成されたフォークグループで、1974年のヒット曲「夕暮れ時はさびしそう」が、2019年3月から東北新幹線ホームの発車メロディーに採用された。歌のモチーフになった、一関市内を流れる磐井川の堤防には同年7月、メモリアルスポットが設置された。ギターをかたどったベンチに、NSPと曲の説明版=写真、そして夕方にかけてスピーカーから1日5回、この曲が流れる。

 NSPは一関高専で出会った平賀和人さん、天野滋さん(1953~2005)、中村貴之さん(1953~2021)ら同級生3人のグループ。ヤマハのポピュラーソングコンテストでの受賞をきっかけに、在学中の1973年にデビューした。「夕暮れ時―」は、天野さんの作詞作曲。磐井川の河川敷のベンチで、恋人と待ち合わせをしていた際の心象風景を綴った、初期に作られた曲だ。

 「天野君が僕の下宿にギター抱えてやってきて『いい曲ができた』と何度も弾き語りしてくれた。でも出だしが『お経』みたいに聞こえて、僕も中村君もピンと来なかった」(平賀さん)。だが先行したシングル3枚が売れず、4枚目を決めるに当たり、天野さんが『夕暮れ時―』をと主張。オカリナとストリングスによるアレンジが郷愁を誘う仕上がりで、「『さびしそう』という歌詞に東北の温かさがある」と平賀さんは振り返る。

 駅メロを発案したのは一関市の勝部修市長で、学生時代によく聞いていた曲という。音源は岩手放送出身の音楽家、姉帯俊之さんが制作、「岩手の田園風景や自然のイメージが広がるよう、シンセサイザーでチェンバロのような音をミックスした」という。

 NSPは1980年代半ばに事実上解散。天野さんは音楽活動を続け、中村さんは会社員に転身したがともに病没。平賀さんは大手レコード会社のディレクターとなり、平松愛理の「部屋とYシャツと私」などのヒット曲を手がけた。

 今年5月5日に、NSPデビュー50周年記念コンサートを、平賀さんとミュージシャンの高橋ジョージさんとのユニット「NoSP」として一関市内で行った。この日は天野さんの誕生日、高橋さんはNSPの大ファンだった。X(旧ツイッター)では「平賀さんがNSPを伝え続けてくれていたから私たちは忘れなかった」「ジョージさんのNSP愛が伝わってきて、オリジナルNSPかと思うくらい素晴らしかった」との声があがった。

 ※元産経新聞経済部記者、メディア・コンサルタント、大学研究員。「乗り鉄」から鉄道研究家への道を目指している。著書に「釣りキチ三平の夢 矢口高雄外伝」(世界文化社)、「駅メロものがたり」(交通新聞社新書)など。

 
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