従業員の待遇改善不可欠か
旅館・ホテルの人手不足が深刻だ。帝国データバンクが2022年10月に行った「人手不足に対する企業の動向調査」では、正社員を不足とする割合が65.4%と、前年同月(26.8%)比で38.6ポイント増と大きく上昇するとともに、全51業種別で情報サービス(69.1%)に次ぐ2位となった。3位以下は飲食店(64.9%)、建設(64.5%)、運輸・倉庫(63.8%)などが名を連ねている。
一方、アルバイトなど非正社員を不足とする割合も75.0%と、前年同月(35.9%)を大きく上回るとともに、業種別で飲食店(76.3%)に次ぐ2位となっている。非正社員の不足割合はこの2業種が7割台で、3位の人材派遣・紹介の57.5%を大きく引き離す「群を抜いた高水準」となっている。
旅館・ホテルの人手不足割合を時系列で見ると、2回目の緊急事態宣言が発出された21年1月に正社員で5.3%まで低下。その後、上昇を続け、22年後半は正社員、非正社員とも6割以上で推移している。
感染防止と経済活動の両立を目指す国の方針、さらに全国旅行支援や水際対策緩和に伴い、旅館・ホテルの稼働率は国が実質的な行動制限を行ったかつてに比べ大きく上昇。今後のアフターコロナ期では、国内外の旅客がさらに動くことは必至だ。経営者は対策をいや応なしに迫られる。
本紙は昨年、全国の旅館経営者に人手不足対策についてヒアリングした。経営者A氏は(1)社員の待遇改善(2)業務の効率化(3)1泊朝食付きや素泊まりプランの積極販売―の三つを実践していると指摘。B氏は「定年延長した高齢者スタッフや人文知識のビザを取得した外国人スタッフを雇用して対応している」という。
「労働集約型産業の旅館にとっては今後も深刻な経営課題であると認識する」というC氏は、「ここ2~3年、コロナ禍の状況ながら、新卒採用に例年よりもコストをかけた。大企業を含め、新卒採用をストップする企業が多く、中小零細にとってはまたとないチャンスであると考えたためだ」。D氏も「先を見込んでこの機会をチャンスと思い、2年間で14人を新規採用した」と言う。
「今現在の人手不足感はない」というD氏だが、それでも「お客さまが戻ってきた際には人の取り合いが始まり、人手不足が生じると思う」と懸念。ある識者は「サービスに付加価値を付けて単価を伸ばし、従業員に還元する。この好循環が必要ではないか」と指摘する。