旅行業4社トップが語る、「ポストコロナ」への道筋
新しい年、2023年を迎えた。今年は旅行業界にとってどんな1年になるか。コロナ禍が足掛け4年となり、終息する気配はいまだ見えないが、「感染防止と経済活動の両立」に国がかじを切り、旅行を含めた人々のリアルな動きが止まることはなくなった。昨秋の全国旅行支援の開始、水際対策の緩和で業界にもようやく薄日が差し始めた。今年1年の展望を中心に、旅行業大手4社のトップに語っていただいた。
東京・芝「とうふ屋うかい」で
業界に薄日、今後の本格回復へ
旅館・ホテルなど観光業界挙げて再活性化目指す
――(司会)全国旅行支援の開始、水際対策の緩和など、旅行業界に薄日が差し始めている。国内旅行を中心に2022年の回顧を。
山北 国内旅行がいよいよ復活か、との思いでスタートしたのだが、新型コロナの第7波により、年間を通して数字の伸びが物足りなかったというのが一番の感想だ。これはほかの会社の皆さまも同じように感じておられると思う。
ただ、昨年は前年と大きく違うところがあった。これまでは感染拡大とともに旅行需要が冷え込むという繰り返しだったが、例えば修学旅行は確実に実施された。中止になっていたイベントも、規模が縮小されることはあったが、リアルに開催されるようになった。個人のお客さまもキャンセルをせず、予定通りにお出かけいただいた。
9月に岸田首相が発表した水際対策の緩和と全国旅行支援。これをきっかけに旅行へ行くことへの心理的なバリアが取り除かれ、国内旅行は大きく戻ってきた。
旅行支援がなくなることで、需要が落ち込むのではないかと思う一方、コロナとの共存の流れがこれまでの経験から確立されたので、今回の第8波でも、それほど大きな影響はないと見ている。
社員には一貫して、お客さまが実感できる価値をつくるよう伝え、取り組んだ。デジタル接点を少しでも良くしていこうと、予約から旅先の体験までの一連のプロセスを、かなり進化させたと思っている。
JTB山北社長
米田 予想だにしなかったことが連続して起きた1年だった。ロシアによるウクライナ侵攻は、これが21世紀の出来事かと思うほどで、私が1990年、ちょうどアメリカに赴任していたときに起きた湾岸戦争以来の出来事となっている。
あの頃もわれわれ観光、旅行業界は大きなダメージを受けたのだが、今回はコロナとの戦いで傷んでいる最中の戦争だ。もっとダメージを受けてもおかしくないぐらいだが、皆、頑張っており、強くなったと実感している。
7回、山を越えて、7回、谷を降りている。今、また8回目の山を登っているところだが、経済全体が上向きであり、それほど心配することはない。
会社は粛々と事業構造改革を進めている。20年の11月に着手し、2年たってほぼやり遂げた。
社員のモチベーションアップも目指して、新規事業に取り組んでいる。コオロギのスナックを作ったり、ワインを100ミリリットルの小瓶に詰めて売ったり、いろいろなことをやっている。ビジネスにならないことが多いが(笑い)、若い社員が一生懸命やっているので、これでいいと思って応援している。
KNT-CTホールディングス 米田社長
小谷野 あっという間の1年というのが実感。前年に比べると、周りの出来事に一喜一憂しない覚悟が年初からあったが、それはできたと思う。
旅行需要の回復を意識した出来事として、4月からJATA(日本旅行業協会)による海外視察が始まったこと。加えて5月末にインバウンドの実証実験を開始したこと。人の動くきっかけがつくられたことで、早晩国内も含めてある程度、活発な動きが出るだろうとかなり期待を持った。
先ほど山北社長がおっしゃったように、10月に全国旅行支援が始まったことは非常に大きく、前年と比べて、お客さまが自分自身で考え行動できる環境が整ってきた。
最近、大阪に出張する機会が多いのだが、新幹線はほぼ満席で、かつスーツケースを持った方が多い。外国の方が加速度的に増えていると感じる。旅館・ホテルのビュッフェ会場では手袋なしが増えている。卒業旅行を含めて、若い人の旅行が増えたとも実感している。23年も期待できる部分だ。
日本旅行 小谷野社長
百木田 昨年、この場所で座談会に参加させていただいたとき、1年後は状況が大きく変わっているのかな、と思ったが、ふたを開けてみたら以前とあまり変わらぬ風景だった。ただコロナに慣れてしまったといえば変だが、消費者の方の意識がだいぶ変わったような気がする。
感染の拡大と収縮が繰り返される中で、旅行に関しては、例えば教育旅行は取り消しという選択肢がほぼなくなった。
10月11日からの全国旅行支援の開始と水際対策の緩和。これは非常に大きかった。国内の人流が目に見えて増えた。それに輪を掛けて訪日旅行客が、観光地の至る所で見られるようになった。これは1年前と比べて大きな変化だ。
ただ、一般団体の動きがまだ弱い。「やりたい」「開催したい」という声は多く需要はあるのだが、実現するまでに至っていない。
海外旅行は、円安も大きいが、フューエル(燃油)サーチャージの高騰により、海外陸上費が平常時の3割から4割高いという現象が大きく影響している。
当社は前年と変わらず、「地域」を意識した取り組みをしている。支店を拠点とし、地域に根を下ろして、地域が裨益(ひえき)できる取り組みを継続して行っている。
デジタルを活用した取り組み、当社はソーシャルイノベーションと呼んでいるが、その部分はかなり進化した。例えば地域のイベントにおける顔認証システムの導入、LINEアプリを活用したデジタル定期券・回数券の販売開始や同アプリを活用した観光需要回復支援としてのイベント予約・参加・サービス提供手続き。これも1年前とかなり変わった部分だ。
東武トップツアーズ 百木田社長
――ウクライナ問題は旅行業界にも少なからず影響を与えた。
山北 当社はロシアにも拠点があり、従業員にとっても厳しい状況が続いている。
旅行全体で言うと、海外旅行の価格高騰。燃油サーチャージの上昇と、航空運賃の値上がり。地上費も物価高騰で高くなっている。
ただ、欧州の一部の国に関しては地政学リスクの影響から敬遠される傾向があるものの、それ以外の国についてはは実は「行きたくない」という声はあまり上がっていない。
――国内のトピックスを挙げると。
小谷野 善光寺の御開帳が1年延期され、諏訪の御柱祭と奇跡的に同じタイミングで行われた。当社のルーツでもある新幹線の団体臨時列車を走らせ、首都圏のお客さまを多くご送客できた。
各地でイベントが再開し、地域と連動し旅行商品で誘客をサポートできたことが昨年1年間で良かった点だ。
百木田 個人的な興味としては、ヤクルトスワローズの村上選手が56本のホームランを打った。私はあの日、たまたま球場近くにいて、深刻な顔をして球場入りする村上選手をはじめ主力メンバーを見たのだが、最終戦であのような結果になって良かった。大谷選手が所属するエンゼルスのスタジアムにも行ったが、確実に日本人アスリートのステータスが上がったような気がしてうれしかった。国内のスタジアムも観客をフルに入れることができるようになり、まだ声を出しての応援は制限されている場合もあるが、大型イベントも含めて国内に人流が戻ってきていることを実感した。
小谷野 ツーリズムEXPOジャパンが2年ぶりに開催されたことも触れなければいけない。
百木田 台風に見舞われたが、悪天候でも、たくさんの方に来ていただいた。
小谷野 旅行に対する世間の強い期待を感じられた。このような動きが出てきたことはうれしい。
――新しい年、2023年の展望を。
会員向け記事です。