「観光立国再加速」へ、自信持って行動
――昨年の宿泊業界の振り返りを。
5月に新型コロナが2類から5類になり、人の流れが増えた。一方、梅雨時、夏場など、昨年も大雨などの自然災害が多く発生した。被害に遭われた地域の組合員の皆さまには心からお見舞いを申し上げたい。
夏以降からインバウンドが大幅に増えた。特に大都市圏。上京するたびに外国人のお客さまが増えたと実感する。一方で、一部の都市や観光地にお客さまが集中する、オーバーツーリズムの問題が発生している。
観光庁も課題にしているが、地方にいかに足を運んでいただくか。日本にはまだまだいい所がたくさんある。いかに足を運んでもらい、お金を落としてもらうか。インバウンドの誘致による地域の活性化。経済の循環を回していくことが今年の国全体の大きな課題といえる。
都市圏以外の地方に行っていただくためにはわれわれ旅館・ホテルの努力はもとより、交通の問題。2次交通をどうするかも課題といえる。ある国会議員の先生から、ライドシェアの必要性について話を伺った。観光庁や交通事業者の方々と連携しながら取り組まなければと思う。
大都市圏はホテルの料金も上昇している。インバウンドが復活し、日本人のビジネスマンの出張も再開してきた。これからはどう、地方の観光地、温泉地の旅館・ホテルの単価を上げていくかだ。原材料費、人件費が上がっている中でも、われわれは利益を出せる体制にしなければならない。
原材料やエネルギー価格の高騰がわれわれの経営を圧迫しているが、省エネ設備の導入に対する補助など、国には一定の手当てをしていただいている。高付加価値化の補助も含めて、全国の組合員が享受をして、少しでも経営が楽になればと思う。
――昨年の全旅連活動は。
総会、大会が6月にあり、多田会長からバトンを受けて新しい私の体制がスタートした。7、8月に新しい委員会も動き出し、初顔合わせという形で委員の皆さんにお集まりいただき、スタートしているところだ。
私はたびたび上京して、国会議員の先生などに、人手不足の問題や金融問題について陳情を重ねた。金融問題は自民党の金融調査会などに、ゼロゼロ融資の返済など、宿泊業界がまだまだ厳しい状況にあることを発言させていただいた。
会長に正式就任前の2月も衆議院予算委員会の公聴会で公述人として金融問題について意見陳述した。
――宿泊業界に理解があった観議連(自民党観光産業振興議員連盟)の細田博之会長が逝去した。
残念なことだ。9月21日の青年部と先生方との意見交換会にも出席いただいたばかりで、今でも信じられない。今後の先生方とのお付き合いがどうなるのか。関係をしっかりと構築しなければならない。
――委員会活動について。
メンバーは青年部OBを中心に、現役の青年部やJKK(女性経営者の会)で活動している人にも参加をしてもらっている。
五つの委員会に私から「こういったテーマで調査研究をしてほしい」「成果物を出してほしい」とお願いをして、委員の方々には数カ月に1回のペースで東京に集まったり、リモートで参加をしてもらったりしている。今年6月の札幌での理事会、総会で私の1期目の折り返しになる。この場で委員会活動の途中経過を委員の方々に発表していただく予定だ。
外国人の雇用は次世代人材育成委員会で議論をしている。宿泊4団体でつくる宿泊業技能試験センターは3年半に及ぶコロナ禍を経て、今、立て直しをしている最中だ。多くの方に試験を受けていただき、人手不足の組合員とどうマッチングをさせるか。さらなるマッチングを積極的に進めたい。
日本の若い人たちには、全旅連青年部が「旅館甲子園」や「宿フェス」を開催し、われわれの業界が素晴らしいものであることを汗を流して頑張ってアピールしている。都道府県の旅館ホテル組合単位でも、旅館・ホテルの仕事の魅力を伝えるための冊子を、特に沖縄県の組合が先駆者として作成しているが、私の地元の福岡県も手掛けているところだ。「旅館・ホテルの仕事は楽しい」ということを日本人、外国人を問わず訴えていきたい。
宿泊業の場合は拘束時間の中でアイドルタイムが生じたり、生産性の点でどうかといわれる。休日やローテーションを一般企業のようにするなど働き方を変えたり、特にビジネスホテルで普及している自動チェックイン機など、DX化を図ることで生産性を高め、若い人たちも働きやすいと思ってもらえるような職場にすることが必要だろう。
――2024年の業界展望を。
引き続き「観光立国」という錦の御旗の下、「観光は地方創生、地域活性化の切り札」「われわれはその実現に重要な役割を担っている」という自信と確信をもって取り組む。
組合員の皆さまの仕事がやりやすく、特に政治的な部分については、われわれの業界益となるような活動をする。
委員会活動はさらに活発化するだろう。私が会長になって、実質的に初めての予算編成となる。委員会活動についても、支援を加速させていきたい。
コロナ禍で動かなかった観光、旅行が本格的に動き出す。その機会を確実に捉えてわれわれはしっかりと集客できるように頑張る。
――業界は外的要因に左右される脆弱(ぜいじゃく)さがある。
ロシアとウクライナ、イスラエルとハマスの問題。平和あっての業界だから、そのような軍事衝突的なことがこれ以上起こらないことを祈るばかりだ。
日本は安全、安心、清潔だとの思いを抱いている海外の方々にも、日本を旅行先にも働く場にも選んでもらわねばならない。
全ての都道府県で旅館ホテル組合と行政との災害協定が締結された。協定に基づく被災者の受け入れが行われ、非常事態において旅館・ホテルが受け入れの場だということが少しずつ社会に広まってきた。
東日本大震災の時は、私は青年部長だったのだが、旅館・ホテルが被災者の第2避難所として機能した。その後も私の地元の九州など各地で大きな災害が発生し、われわれの施設が避難場所となっている。
そのような社会貢献がコロナ禍でのGo Toトラベルや全国旅行支援の実施にもつながったのではないか。今まで税金を費やして旅行を喚起しようという話はほとんどなかった。業界の地位向上が叫ばれてきたが、それが徐々にかなってきたと感じる。
――旅館業法の改正で宿泊施設は迷惑客の宿泊を拒否できることになった。これもある意味、地位向上の一つといえるのではないか。
今までカスハラを受けても泣き寝入りというケースがあったと思うが、それが法律によってしっかりと言える立場になった。
宿泊拒否については、「やっていいこと」「やってはいけないこと」を理解しなければならない。われわれ事業者もお客さまも、良心に照らし合わせて、極端な考えを持ってはいけない。お互いがウィンウィンの関係になるようご利用いただくことが健全な姿なのではないか。
――年頭に当たり、組合員の旅館・ホテルにメッセージを。
23年は新型コロナが5類になり、人が動き出したコロナ禍からの一つのゴール、「観光立国始動の年」だった。
今年は「観光立国再加速の年」だ。
しかし、いまだにさまざまな問題がある。全旅連は皆さまと力を合わせて解決に取り組む。業界が良くなるために、皆さまの仕事がしやすくなるために取り組みを進める。
私は今年55歳。小原元会長、佐藤元会長、北原元会長、多田前会長ら諸先輩方と青年部世代のちょうど中間だ。われわれのような「壮年部」が諸先輩や現役の青年部、JKKと連携をして、業界のためにさらに努めていきたい。
全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会 会長 井上善博氏