【2024新春特別インタビュー】全日本ホテル連盟 会長 清水嗣能氏に聞く


全日本ホテル連盟 会長 清水嗣能氏

経営者が自ら変わる、大変革の1年に

 ――コロナ禍を含めた23年の宿泊業界の回顧を。

 まず、コロナ禍がここまで長くなると思わなかったし、皆さんもそう思っていなかったと思う。

 連盟としては、自民党の観光産業振興議員連盟や調査会で要望をする機会があった。その際に最初に話題に挙がったのが、2003年に流行したSARSの事例で、観光業界を支援するために旅行キャンペーンのような政策を早急に講じていただきたいとお願いをした。それが実って2020年7月からGo Toトラベル事業が始まった。

 最初は商用旅行やビジネス利用者も補助対象だったが、10月から対象外となってしまった。旅館さんや観光ホテルは対象で、なぜコロナ禍で同様に苦しんでいる連盟会員は対象外なのかとの思いだった。会社名での領収書発行が対象外となった後に、会員アンケートを実施し、約9割の会員が「宿泊費用の請求に関して、出張旅費の対象とするために宛て名を会社名で書いてほしい」との回答だった。

 東京オリンピックを控えた中で、客室の供給不足を補うべく都市部を中心に新しいホテルがどんどん建設されたが、コロナ禍により客足が激減するなど、ホテルを取り巻く状況は大きく暗転していった。

 Go Toトラベル事業については、コロナ禍の拡大要因と批判されたこともあり、事業が停止された。連盟としては早期の再開をお願いし続けた。その後、2022年10月から全国旅行支援が始まり、商用旅行も対象にしていただいた。一昨年11月15日に当連盟の50周年式典を開催した際に、ある方から「全国旅行支援開始時にGo Toと同じような条件で商用旅行を外すべきだという意見があったが、清水さんがあれだけ言うんだから、という感じで対象となった」とのお話を伺った。

 これらの活動は連盟として大きな成果で、連盟があるからこそ発言できる場が与えられ、就任以来発信してきた「組織としての存在意義」を立証することができたと思う。

 ――昨年5月には新型コロナウイルスが2類から5類へと引き下げられた。

 「出勤しないでテレワークしてください」という公的なお達しがあり、出勤がなければ出張もなくなってしまう。宿泊業は人が動いてなんぼの商売で、この風潮は大きなダメージとなったが、想定していたよりは廃業したところは少なかったという印象だ。

 ――会員数については。

 さほど大きくは減少していない。皆さん、「雇用調整助成金とGo Toでなんとか生き延びられた」という実感だ。

 ――連盟としての働き掛けがなかったら支援がなかったかもしれない。

 そうなったらもっと厳しい状況だったと思う。現在はゼロゼロ融資の返済に苦慮している宿泊施設が多いと聞いているが、業界としてはコロナ禍もようやく明けて、通常営業の最初の年を迎えているという印象だ。

 ――コロナ禍を経ての業界の課題について。

 アメリカが一足早く、コロナ禍から抜け出して人を動かし始めた。セントラルフロリダ大学の原忠之先生にもご指導いただいているが、給与水準の引き上げは必須だ。原先生によると、アメリカでは10ドルだった時給が16ドルへと上昇し、ホテル業界は顧客とともに従業員も戻ってきているとのこと。業界としての革命を成し遂げた好事例だと思う。なんといっても人手不足を乗り越えることは大きな課題だ。

 ――他のさまざまな業界でも人手不足が課題となっている。

 宿泊業は労働集約型の産業なので、人の確保は必須。現在、清掃担当者の確保が現場で大きな課題となっている。時給も上がり、人件費も高騰しつつあり、「今、特に困っていることは何か」とのアンケートを実施したところ、85%が人手不足との回答だった。当連盟は毎年2月に経営者セミナーを開催しているが、今年は「人材難に立ち向かえ」というテーマで行った。

 とある有識者に「宿泊業界は人が集まらないんですけど、どうしたら良いですか?」と聞いたら、「給料を上げればいいんですよ」って、当然のことのように言われた(笑い)。経営的な一つのルール、目安として、人件費を全体の総売り上げの30%以内に収めるというものがある。

 ――給料アップのために売り上げも上げる必要が生じる。

 ただ、結論から言うと、宿泊業界は今、売り上げが全体的に上がっている。

 ――都市部を中心に、客室単価も上昇している。

 その通り。私の感覚では、人件費率30%以内を順守しながら、売り上げが2割上がれば賃金上昇分をカバーできる。

 ――連盟の客室利用率もだいぶ回復してきている。

 現場レベルでは、都市部と地方部で若干の差が生じている。清掃の人手不足により、7、8割稼働を余儀なくされ、満室時と同程度の売り上げを確保しようとすると客室単価が高くなる。

 清掃に関して、都市部は外部のリネン業者に委託しているホテルが多い。リネン業者は何社もホテルを担当しているがゆえ、一つのところだけに多くの人を送るわけにはいかず、各ホテルに対して人数を通常より少なく割り振っているので、多くのホテルがフル稼働できない状況だ。

 地方部にも外部委託しているホテルは多くあるが、私のホテルのように自家雇い(直接雇用)の施設が多いので、地方部はフル稼働しやすいという事情もある。

 ――各ホテルの稼働が、人出、人流の創出に大きな役割を果たしている。

 各地を結ぶ交通について、とあるパネリストの依頼を受け、本年3月16日開業の北陸新幹線福井・敦賀開業について調べてみたことがある。

 今、JRに「北陸アーチパス」という商品があり、関西発で北陸の福井、石川、富山を回り、北陸新幹線で東京まで移動できる。個人的には、太平洋側もつないで環状線的に「ジャパンリング」のような名称でできないかと話したところ、JR東海いわく「非常にひっ迫していて無理です」とのことだった。確かに、私が今日東京に向かう新幹線も、外国人の団体観光客がたくさん乗車していてひっ迫の意味はよく分かる。ジャパンリングのような構想に入ると、全国を回れる「ジャパンレールパス」と値段が変わらなくなってしまうからだろう。

 ――24年の業界の展望と事業について。

 先ほどの話に重なるが、原先生いわく、「(アメリカがそうであったように日本も)宿泊業界が変革するチャンス」を迎えていると思う。

 従来、宿泊業界は給与が安く、盆や正月など一般の人が休みの時に忙しく、土日祝出勤があり、朝早くて夜遅いシフトとなっているなど、労働条件としてよろしくないと言われる。それを他産業と比べても遜色ない、むしろ良いという水準まで上げなければいけないと思う。

 ――他に今年のテーマは。

 業界のイメージアップが急務だ。日本ホテルスクールの石塚勉先生から「親が学生にホテルのようにいつ潰れるか分からないような業界に行くな」と言われると聞いて、ひどいお話だなと思った。ホテル業界は魅力的で楽しくて、面白そうでやりがいがあると思っていただけるようにしないといけない。

 私がホテル業は良いと感じるのは、お客さまの反応をダイレクトに感じられる点。怒られることもあるけど、「ゆっくり休めて良かった」「料理がおいしかった」「また来るね」と、お客さまの笑顔を目の前で感じられること。旅に出て、思い出が多いほど人は幸せになれる。突き詰めると、「人の幸せづくり、思い出づくりのお手伝いをするのがわれわれの本当の仕事なのですよ」と、私は従業員に伝えているし、もっと世間に発信していきたい。そのようなイメージ形成が大切だと思う。

 ――読者にメッセージを。

 ホテルで働く人の待遇改善とイメージアップに注力したいこと。脱皮しないヘビは死ぬ。お客さまが来ていただけるようになった今こそ、経営者が自ら変わる、変えていく意思が必要だ。24年を大変革の1年にしてまいりましょう。

 

全日本ホテル連盟 会長 清水嗣能氏

 
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