【2024新春特別インタビュー】日本ホテル協会 会長 定保英弥氏に聞く


日本ホテル協会 会長 定保英弥氏

担い手確保へ働きやすい環境づくりを

 ――2023年の振り返りを。

 この3年間、未曽有の難局。非常に厳しい状況が続いてきた。

 一昨年10月、水際の緩和がなされ、全国旅行支援も始まると、ようやく国内外の動きが出てきた。そして昨年5月に新型コロナが5類感染症というレベルに緩和された。一時期、ホテルの稼働率は10%、20%という状況だったが、秋には会員ホテル平均で7割水準まで戻ってきた。

 ただ、コロナ前の水準に比べると、まだ1割ぐらい足りない。

 地域によって格差がある。大都市圏の稼働率は7割を超えるが、それ以外はおよそ6割。足して割って全体で7割弱という感じだ。

 宴会需要もまだ戻り切っていない。大都市圏は回復しているが、これも地域差がある。

 利益ベースで見ると、過去3年に比べるとかなり戻っているが、ホテルによっては資産を売却して特別利益を計上しているところがある。会員の数字を見ると、かなり回復しているように見えるが、本格的な回復までにはまだ時間がかかる。

 ――人手不足という大きな問題に直面している。

 接遇体制、清掃体制が追い付かず、満室にできないほど。東京を中心に新たなホテルも建設され、さらに要員の取り合いになっている。

 次世代を担う若い世代の皆さんが、われわれの業界から離れてしまった状況がある。コロナ禍になり、観光業界の将来に対しての不安から、学校を出てホテルに就職しようという人が減っている。新規採用もコロナ前の水準に戻そうと努力をしているが、なかなか思うように結果が出ない。

 日本は観光の目的地として、外国のお客さまにとって非常に魅力的だといわれる。有名旅行誌のアンケートでも、常にトップにランクされる、人気のデスティネーションだ。

 為替の影響もあるが、外国人のお客さまが増えている状況は、われわれにとってプラスであることは間違いない。そういった意味では、われわれは全体的に単価を上げられる状況にある。

 会員全体の平均を見ても1割強、コロナ前の水準を上回っている。特に上がっているのは東京とその周辺。平均3割近く、コロナ前から上がっている。

 ホテルを運営する会社にとって、コロナ禍で、社員の給料や賞与を下げざるを得ない状況が続いていたが、今、それを戻すタイミングになっている。

 人手不足の解消に向けて、お客さまからしっかりと対価を頂き、従業員に還元する。このような取り組みを進めていかねばならない。

 ――2023年の協会事業について。

 支部長が2カ月に一度集まり、情報交換を行っている。話題は税制や法律、そして今は人手不足の話が中心だ。

 離れた人をどう戻すかや、従業員のマルチタスク化、中途採用、定年になった人の雇用、インターンシップなど、会員ホテルごとに取り組みを進めているところだ。

 政府、行政に対する要望も行っている。一つは、この業界で働くことの魅力についての情報発信。観光は日本にとって将来の基幹産業、有望な産業だ。われわれも折に触れ、さまざまな機会で発信をしてきたところだが、政府からも発信をしていただきたい。

 今後もわれわれにとって生産性向上が重要なテーマだ。IT化、ロボット化への投資に向けての補助。さらに業務の効率化を図る上でさまざまな規制があるので、緩和をしてほしいと要望を続けている。

 稼働率があと1割、利益も回復しつつあるが、コロナ禍の3年間で失った売り上げの額が非常に大きい。一朝一夕に取り返せるものではない。金融支援を訴えてきたが、これもさらに継続的に訴えていかねばならない。

 今、すごくお客さまが来ているからホテル・旅館業界は大丈夫だろう、ということでは決してない。

 10月に訪日外国人の数がコロナ前を超えたなど、いいニュースが出たが、ようやく息継ぎができる状況になっただけで、課題は山積している。この現状をさまざまな場面で発信するとともに、改善するための要望をしっかりと続けたい。

 全国にどうまんべんなくお客さまに行っていただく流れをつくるか。われわれの会員は北海道から沖縄まで、全国に235軒。それぞれの地域に独自の魅力的なコンテンツがある。

 お客さまの滞在日数、消費額を増やす意味でも地方への誘客は不可欠だ。

 ――2024年の業界展望について。

 観光立国の実現へ、改めて向かって行くステップになろう。2025年の大阪・関西万博について、機運醸成も積極的に進めたい。

 インバウンドのお客さまは今後も堅調に増えると期待している。ただ、先ほど来、申し上げている地域差をなくすことだ。

 オーバーツーリズムについては、日本人の国内旅行にも支障が出るようなことはあってはならない。さまざまな取り組みをトライアルも含めて行う必要がある。

 人手不足、人材確保の問題は継続的に取り組まねばならない。おもてなしを担う人材自体が日本の魅力、日本の観光の魅力だ。担い手をしっかり確保し、その人が働きやすい環境をつくること。業界挙げて取り組むべき課題だ。

 ホテルを舞台にしたドラマが流行した時には、われわれの業界に入りたいという若者が増えた。ホテルのストーリーを盛り込んだ漫画など、われわれの業界に興味を持ってもらえるような仕掛けを、協会の広報宣伝委員会で今、考えている。

 外国人材が必要不可欠になっている。われわれ事業者とのマッチングも積極的に進めたい。

 金融、税制問題については、決して甘えるつもりはないが、この3年間、これまで経験したことのない苦しい時期を過ごしてきた。先が見えてきたとはいえ、まだ完全には乗り越えていない。継続的な支援をお願いしたい。

 ――協会にSDGs委員会を新たに設けた。

 フードロスへの対応や、カーボンニュートラルの取り組み。会員がそれぞれ行っている取り組みをお互い紹介しあったり、表彰制度をつくったりしている。

 会員のセールスポイントになる。特に外国のお客さまがこれらの問題について非常に興味をお持ちだ。この点はしっかりアピールしたい。

 ――会員の増強については。

 現在235軒、5万8130室。

 協会の運営上、会員が増えることは非常にありがたい。入会条件を少し緩和するなどして、新しく会員になっていただけるような環境づくりをしたい。

 ――年頭に当たり、会員へのメッセージを。

 コロナ禍で失った体力を早く戻すことが最優先。

 そして今、最も課題となっている人の確保。ホテル業界は魅力があり、面白いと、どう若い世代の人たちに知ってもらうか。

 働く人の労働条件を良くし、モチベーションを上げてもらい、良いサービスをすればお客さまは当然喜ぶ。喜んでいただければ、会員ホテルを訪れるお客さまがさらに増えて、売り上げも利益も上がる。確保された利益を従業員、お客さま、パートナー企業、上場企業であれば株主と、全てのステークホルダーに還元できる。

 働く人はさらにモチベーションが上がり、より良いサービスをしようとする。そんな良いサイクルをつくっていきたい。

 余談になるが、私ども帝国ホテルの初代会長、渋沢栄一が今年から発行される新1万円札のデザインになる。渋沢翁は日本の資本主義の父といわれたが、公益性を追求した。社会のためにという信念に重きを置き、結果として利益を上げようという考え方だった。公益性という気持ちでお客さまに接すれば、最終的には利益がしっかりついてくるはずだ。同じ業界で働く方々に共有できる考え方だと思う。

日本ホテル協会 会長 定保英弥氏

 
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