温泉、自然を犠牲にするな
地熱開発の促進に向けて温泉法、自然公園法の運用見直しが環境省で進められている。「地域共生型の地熱利活用に向けた方策等検討会」が7月に設置され、3回の会合を経て9月には結論を出すという。私も委員の一人だが、拙速な議論は避け、規制緩和には慎重であるべきと考えている。
日本温泉協会は、温泉枯渇のリスクなど温泉保護の観点から「無秩序な地熱開発」に反対している。地熱開発の全てに反対なわけではなく、地域活性化のための小規模発電などは認めている。再生可能エネルギーの活用による気候変動対策の重要性も理解しているつもりだ。ただ、温泉資源や自然環境を犠牲にした地熱開発には反対の立場だ。
協会では「大規模かつ大深度掘削による地熱開発が温泉源に影響を与えることは間違いない」と考えている。温泉法関係の指針の見直しでは、地熱貯留層の規模に応じた管理や規制撤廃、地熱貯留層と温泉帯水層の離隔距離の在り方などが論点だが、地下構造の把握には不確実な部分も多い。地熱貯留層や温泉帯水層の範囲、外縁を正確に特定できるのか。シミュレーションなどの分析で、開発の持続可能性、温泉への影響を正しく評価できるのか。
温泉に長年、毎日接している私たち温泉宿の人間は、温泉の変化を肌感覚で捉えている部分が多いが、温泉帯水層の広がりや地下水の循環などは、相当長い時間をかけてモニタリングしないとつかめないのではないか。規制緩和で地熱開発を推進する前に、温泉の詳細な調査や継続的なモニタリングの態勢を全国で充実させ、データの蓄積に基づいて温泉資源の保護施策を見直すことが必要だ。
地熱開発を進める場合であっても、協会はその際の条件として、(1)地元の合意形成のための協議会の設置(2)地下構造などの開発に伴う客観的な情報公開と、都道府県の温泉審議会に基づく第三者機関の創設(3)資源の過剰採取を防止する規制(4)継続的で広範囲にわたる環境モニタリングの徹底(5)温泉に影響、被害が出た場合の補償を含む回復作業の明文化―を求めている。
温泉法以外にも自然公園法の運用に関して、国立公園などにおける地熱開発の規制緩和が検討されている。規制緩和に伴い経済効率を重視した大規模な地熱開発が各地で進められたら、十数年後の温泉地や国立公園はどうなっているだろうか。たとえ山あいの小さな温泉地であっても、貴重な湯治文化や里山を守っている。温泉資源や自然環境を次世代に引き継ぐための方策を考えていきたい。
佐藤氏