コロナ禍で旅行業に脆さ露呈
恐竜の絶滅は巨大隕石(いんせき)の衝突による気候変動が定説だ。だが、近年になってウイルスや伝染病などの新説も唱えられるようになっている。その真意はともかく、新型コロナウイルスは人類の生存はもとより、経済や暮らし、人々の意識に衝撃的な影響を与えている。
その影響の大きさから言えば、観光業や交通、飲食など、人の移動をサポートする産業が最も深刻だ。しかし、観光・旅行業を取り巻く変化は、コロナ禍が襲う以前から顕著となっていたのではないか。団体旅行から個人・小グループへの旅のダウンサイジング、物見遊山から個々人の趣味・テーマ旅への変化などの傾向は、今回のコロナ禍で一気に加速したとも言える。
翻って、今日の旅行業の原点は、お伊勢参りなど寺社参りといわれる。祈祷師である御師は、実は総合旅行業を営んでいた。お札や伊勢暦を持参し全国をセールスプロモーションした。旅のガイド、受け皿となる宿(御師の宿)、食事、買場(土産市場)、精進落としの酒宴などの手配、ブランド品の開発などを手掛け、あげくは究極のイベント(式年遷宮)に至るまで、旅の全てをマネージメントしていた。
しかし、この旅の原型は、戦後の高度成長期を通じて経済合理性のもとで細分化し、旅に係るあらゆる業態が専業化していった。旅行業も然りである。旅行の大衆化の進行とともに、旅行商品造成と手数料収入を軸とする事業の専業化が進んだ。この専業特化が、世界的にも稀な大企業も輩出した。
こうした大企業を恐竜にたとえる訳ではないが、環境に適応しすぎたあまり、今の大きな環境変化に耐えられなくなっていることも事実であろう。少し辛口表現だが、今や旅行会社は観光(旅行)の資源としての地域の知識に乏しく、地域の多様な産業との接点が希薄である。地域が疲弊しても、その再生の術に疎い。今回のようなコロナ禍の環境激変に、こうした旅行業としての脆さを露呈している。
本年度、観光庁の域内連携促進の実証事業は、地域の製造業や農林漁業とその加工産業、地域交通など、地域の観光力の底上げと、地域に密着した新たな旅行業の役割を試す実証事業という側面もある。
観光は、今や地域の「総合力が試される」時代になっている。地域が抱える、新たな産業・ビジネス創造や人材育成、文化創造、二次交通整備などの多様な課題に、旅行業としてどのように関わっていけるのか。いま旅行業は、これら地域課題に向き合い、それぞれの事業分野で存在感を高め、収益が上げられるような総合力が求められているものといえよう。
丁野氏