半世紀ほど前、日本政府は急激な少子高齢化や健康保険の赤字増加を予測して、豊かな温泉や海を予防医学と地方経済活性化に活用するために、多くの専門家を健康保険が適用される欧州の温泉やタラソテラピーの視察へ送りました。
大都市の人口集中と地方の過疎化も長年問題視される中、コロナ前を振り返ると、インバウンドや温泉ウェルネスも言葉や資格が優先されて「予防医学、地方経済活性化」にうまくつながらなかったようです。
移動ができないコロナ禍は大変ですが、テレワークなど新たな可能性は大きく、年間1億3千万泊も温泉地で過ごす世界一の温泉DNAだからこそ成せる技だと思います。今、それどころでないと思いますが、温泉の多面性を過小評価せず、社会的有効活用を視野に次世代へつなげることを願います。
例えばフランスで温泉は病人のためで、温泉地テレワークなど有り得ません。科学的な温泉療法を実証して温泉地で具現化し、温泉と経済効果を常時発信しなければ温泉は見向きもされません。軽度のうつ病の温泉療法も功を奏していますが、日本の傷病手当で最も多いのは「精神および行動の障害」で32.72%、20~39歳では50%を超えます(出典・全国健康保険協会 令和2年度)。コロナ禍の都会で失職した若者たちが「無料シャワー付きネットカフェ」を拠り所にする事態です。温泉DNAがないフランスでできたなら、日本の温泉地でメンタルはじめさまざまな取り組みが可能なはずです。
2020年度で終了した国東半島北西部の地域おこし事業で「ヘルスツーリズムの核」を監修させていただきました。温泉は黙っていても利用するので、周辺サービスを「生活習慣病予防三大原則(食事・運動・リラクゼーション)」で構築し「住む人も来る人も健康に」を目指しました。
住民のニーズを探り、事業終了後も持続可能に住民たちで運営できるよう人材育成を強化して、4月以降には任意団体として運営をスタート。コロナ禍でも近隣から適度に集客し「リラックスした!」と好評だそうです。売り上げは100%地元スタッフへ。温泉の可能性を根気強く説明することで自主運営を承諾いただき、「大変だけど楽しい」とのこと。新たに参加を希望する住民の方もいるそうです。関連事業で市が「地域づくり表彰審査会特別賞」(国土交通省)と「観光庁長官賞」(内閣府 恋人の聖地)をダブル受賞。コロナで疲弊しても、温泉DNAがある日本だからこそ、少しの工夫で温泉地の可能性はどこまでも広がると思います。
ジュアンド代表理事