往来の回復競争に負けるな
※6月28日付で国土交通政策研究所副所長に異動。内容は運輸総研在籍時のものです。
2020年2月以降の新型コロナウイルス感染症の全世界での爆発的な流行に対応して、いわゆる「水際対策」(検疫を中心とし、入国管理等の関連施策を含む)が日本を含む各国で大幅に強化され、国際的な人的往来について最近では例を見ない厳重な規制が課されてきた。その後、2022年に入り、「オミクロン株」の流行ピークアウトやワクチン接種の大幅な進捗(しんちょく)により、死者や重症者の発生が抑制されてきたことから、欧米やアジア諸国などでは、水際対策を大幅に絞り込み、実績に加え制度面でも、国際的な人的往来に関する「コロナ以前」への復帰が着実に進みつつある。
わが国においても、国内外の感染の鎮静化やワクチン接種の進展等を踏まえ、本年3月以降、水際対策の段階的な緩和が行われてきたが、今般入国者数上限の引き上げや、入国時検査・隔離などの大幅な縮小、外国人観光客の一部受け入れ再開等の大幅な見直し(緩和)が行われた。しかしながら、当研究所としては、今般の見直し後も国際的な人的往来の観点からは依然課題が残り「G7の背中は遠い」と評価して、今般以下の追加提言を行った(6月6日付発表)。
1.「1日当たり入国者数制限」は、撤廃する
2.「外国人入国目的の制限」(観光)は、「完全に」撤廃する
3.短期滞在については、(1)ビザ取得義務を「コロナ以前の水準」に戻すとともに、(2)「受入責任者制度」を廃止する
4.その他の制約についても、改善に向けて取り組む=(1)「有効と認めるワクチン接種」の範囲(2)水際対策(「赤黄青国」の設定)と感染症危険情報等との整合
もちろん、政府も「G7並みへの緩和」(岸田首相)という表現で、最終的な水際対策の撤廃を想定しており、到達目標自体に大きな問題はないが、到達速度においては主要国と大差がある。当研究所としては、今のままでは、交通・観光関係者や海外渡航・外国人招致を考える企業・学術研究機関・個人などが、国際競争上、大きなハンデを抱える状態が続くことを危惧する。
状況が急速に変化している環境下では、「正しいことを実施すること」と同じかそれ以上に「スピード感を持って実施すること」が大事だが、インバウンドに加えアウトバウンドを含めた「人的往来回復競争」で日本は速度負けしつつある。放置すればその差はさらに開いていく。
幸い、今生じている差は法制度および運用の問題であり、投資や人材育成の問題ではない。このため、長期間の準備が不可欠というものではなく、関係者の意思でいつでも挽回が可能である。「背中はまだ見えているし、追いつけない差ではない」。関係者の決断と奮起を促したい。