課題は資金繰りだが、これは雇用調整助成金や緊急融資があり、また、これからGo Toトラベルキャンペーンも実施されるので、なんとか生き延びられる。旅館業は1970年代くらいから団塊の世代オンリーで営業してきたといっても過言ではない。確かに団塊の世代はまだボリュームゾーンだが、新型コロナウイルス感染症によってシニアはもう旅行には出かけないかもしれない。5年後には顧客層がガラッと変わる。その時まで旅館業を続けているかどうかを含めて抜本的な対策を講じる必要がある。
問題は来年だ。消費者全体の平均賃金が新型コロナでかなり下がった。それがボディブローのように効いて、来年の旅行実施率は過去最低に落ちる。その時に今までと同様の営業をしていては、売り上げが従来の8割程度しか見込めない。減収となると資金繰りは何とかなっても、既存の債務の返済ができない。今までは増収増益、もしくは増収減益だったが、今後は利益を出して内部留保を作る減収増益の経営にシフトしないと生きられない。そのためには人件費と食材原価を減らす必要がある。特に現在の社員数を今後も維持していくべきかどうかが大きな課題になってくる。
中小企業の生き残り策としては、新しい資本を注入していくという対策が必要だ。しかし、外資になびいてはいけない。有効なのは「劣後ローン」の活用だ。債務の返済を一番遅くして事実上、返済しなくてもいい形にする。そうすると資本として見なすことができるので、バランスシートが改善される。抜本的な解決策ではないが、とりあえずの対処療法にはなる。ただし、劣後ローンは、債務者である旅館側からは口が裂けても言えない。金融サイドの思惑と政策によって出てくる言葉なので、金融が動かない限りできない。
あとは、REVIC(地域経済活性化支援機構)のような地方創生ファンドの力を借りる方法もあるが、REVICにも限界があるので、民間ファンドも活用し、中小旅館を後押しする。例えば、地域にSPC(特別目的会社)やDMCを作り、そこに出資をして、そこから間接的に資本を出してもらうという形だ。今までの旅館業は経営者イコール、100%出資のオーナーなので、それは乗っ取りではないかと思う人がいるかもしれない。だが、それができなければ、旅館は地域の一番館しか残らない。
地域の主要な旅館が生き残るためには各旅館のバランスシートを改善しなければならない。BS(貸借対照表)を改善しなければ減収増益は無理なわけで、中小企業全般に言えることだが、旅館が生き残っていくためにも必要だ。
井門准教授