かんざしは6月21日、クチコミを1秒で要素分析する人工知能「薇―ぜんまい」を発表した。
デモサイト
https://www.xenmai.jp/
- 研究の背景と成果の概要
宿泊先を決めるために宿泊予約サイトを利用する人は年々増加傾向にあり、その利用を後押ししている要素の1つが「くちこみ」である。情報化が進んだことと、スマホのような情報デバイスの個人所有率の増加により、商品やサービスを購入する前に吟味する行為が消費購買行動に欠かせなくなった背景もあり「くちこみ」の重要性は加速する一途である。さらに、サービス提供する側の宿泊施設(旅館やホテルなど)においてもそれは自身の設備や接遇、顧客体験を知る方法でもあり、反省や改善に活かしたり、より的確な経営判断の材料にするといった活用方法が広がっている。
今回、当社らは特に宿泊施設での活用事例に着目し、くちこみから宿泊旅行業界における重点要素の抽出と分析手法の研究を行った。そして、人工知能として誕生したのが「ぜんまい」である。ぜんまいは日本語特有の曖昧な表現、複雑な文章から1秒で業界の代表的な重点要素とされる「風呂」「部屋」「食事」「設備」「立地」「接遇」の6つについてそれぞれが文中に登場する回数とその箇所を抜粋する能力を有する。この宿泊旅行業界に超特化した日本語分析の人工知能は国内初となる。
- 業界に向けた今後の展望
当社はぜんまいに感情分析や単語抽出などの他の人工知能や技術をかけ合わせて、文章読解の手助け、指標化などを簡単に行えるサービスの構築とその実用化を目指す。最初の目標は、現場業務負担の軽減、効率化であり、先の目標は宿泊旅行業界のDX化である。
なお、これまでもくちこみを読解して広く活用はなされてきたが、それを現場にて担当者が安定して読解に充てられる時間を確保し続けることは簡単ではなくなって来た(※参考1)と言える。コロナ禍を経て、さらに忙殺される傾向が強く予想される。現場にはそうした苦しい背景がある点からも、当社はぜんまいの実用化は急務だと考えている。
※参考1:
コロナ禍前に発表されていた厚生労働省『毎月勤労統計調査 令和元年分結果確報』と総務省『平成29年就業構造基本調査』によると、他産業に比べて働き手の負担増加と高齢化が顕著に見て取れる。さらに厚生労働省『令和元年雇用動向調査』によると、入職率も離職率も全産業中トップ(入職率36・3%、離職率33・6%)と、定着率も断トツに低いことがわかる。
- 人工知能「薇―ぜんまい」とは?
1秒で宿泊旅行業界の代表的な重点要素とされる「風呂」「部屋」「食事」「設備」「立地」「接遇」の6つについてそれぞれが文中に登場する回数とその箇所を抜粋する能力を有する人工知能である。
- 人工知能「薇―ぜんまい」の能力についての検証
当社内より20代〜50代の男女社員(デザイナー、プログラマー、営業、総務、財務、経営企画)から無作為に9名ピックアップし、それぞれに同じ文章を読解してもらい、匿名の状態で相互評価し合う形式で検証を行った。
【検証手順と結果】
1)「9名の人間」+「1名の人工知能(ぜんまい)」の合計10名で、同じ文章をそれぞれが読解し重点要素と思う文脈にマークを着ける。
2)それを匿名の状態でシャフルして並べる。
3)「最も人間らしく、自然な読解」と思われるものに相互投票する。
この実験を合計3回繰り返した。
結果は人間の2勝、ぜんまいの1勝となった。
さらに今度は反対検証を実施してみた。
【反対検証手順と結果】
4)「最も人間らしくなく、不自然な読解」と思われるものに相互投票する。
人間が3回とも最多得票となった。人間による読解であっても「不自然だ」として票を集めたのだ。
結果は人間の3敗である。
【検証の総論】
匿名で実施した合計6回の勝負において、ぜんまいの4勝2敗となった。勝敗は確率の要素もあるので参考程度に捉えつつも、少なくとも今回の検証においてぜんまいは「優れた読解能力を持つ人間にはまだ敵わないこともあるが、人間に遜色ない読解能力を有する」ことが確認された。特にその読解に要する時間は人間よりも圧倒的に早い(今回の検証ではいずれも1秒以下だった)ことから、当社は「ぜんまいは人間を補助し、業務負担を軽減させる効果が充分に期待できる」と結論づけた。
以上の検証と併せて、被験者9名には各35問ずつの読解を行ってもらい、同じ問題をぜんまいにも読解させた。それらの結果を1対1にまとめ、被験者達にフィードバックしそれぞれ感想を尋ねた。自分自身とぜんまいとの単純比較となるため主観的であるが、以下の通り半数以上が即戦力になり得ると評価した。
- デモサイトを公開する理由は?
宿泊旅行業界は属人的な要素が依然多く、先人達の経験値に頼る事が多い業界のひとつと言える。しかし、その一方では市場規模が拡大傾向(コロナ禍により一時的に停滞、減退はあるものの本質的には拡大傾向)である。つまり、市場規模に比べてDX化が遅れている業界の1つだと言える。かと言って、DX化を拒んでいる訳でもない。遅れているだけだ。
業界特化の研究と開発をしている当社の取り組みにより始まりつつあるパラダイムシフトをより多くの方に体験し、理解してもらい、宿泊旅行業界のDXをより早く進められればと願い、デモサイト(https://www.xenmai.jp/)を一般公開する。
○デモサイトの注意点
- デモサイトにおいてはモデルを小さくしたもので公開しているため、極端な短文においては精度が落ちる傾向がある。しかし、これはフルモデルであれば一定の解消ができている。
- デモサイトを使った無断商業利用や二次サービス化を禁止とし、一度に分析できる文章量を200文字までと制限もかけている。
- ぜんまいは他の人工知能や技術と融合させて今後サービス化を目指しており、デモサイトは生まれたてのぜんまい単体の状態であることを加味いただきたい。