23年夏、サービス刷新
最上位に旅のコンテンツ開発を 経営改革し、ネット販売に特化
――まず、現在の業況について伺いたい。
「コロナ禍では、旅行需要も変化した。ロングステイ系の商品は特に反響が大きく、新幹線とホテルをセットに6泊7日を特別価格で提供する『1WEEKプラン』は好評だった。当初は東京、京都、大阪の3都市が対象だったが、今では対象範囲を広げ、品ぞろえも充実した。このほか、旅行出発間際での申し込み受け付け、ブラックフライデーセール、SNSを使った販促も進め、21年度の第3四半期単独では営業黒字が出るまでに回復した」
――23年夏から24年夏にかけて「旅のコンテンツ開発」「ネット販売」を中心に経営を改革するとのことだが。
「この二つを中心とした経営改革は、コロナ前から検討を進め、一部はすでに着手していた。中でも旅のコンテンツの開発は、今回の改革により会社のミッションの最上位に位置付けることとなる。まずは、JR東海沿線の事業パートナーと協働して、旅に出たくなるようなコンテンツを開発、提供していく。延べ約800万人いるEXサービス(『エクスプレス予約』『スマートEX』)の会員にこれを提供して利用を促進すると同時に、地域の振興も図っていく」
――EXの中に旅のコンテンツの全てが入るのか。
「昨年4月に、JR東海が新幹線の新たなサービスとして、新幹線とともに沿線のホテルや旅先での交通手段、観光プランなど旅行全体をシームレスに予約、決済できる『EX―MaaS(仮称)』、新幹線とホテルや観光プランなどを組み合わせられる『EXダイナミックパッケージ(仮称)』を23年夏から開始することを宣言した。現状でもEX会員向けの宿泊プラン、コンテンツの提供を行っているが、今後は決済を含め、EXの画面を使い一気通貫でできるようになる。われわれは、実行部隊として取り組んでいく」
――旅のコンテンツはどのようなものを。
「昨年の11月には、これもJR東海がEXサービス利用者向けのポータルサイト『EX 旅のコンテンツポータル』を開設した。この旅のコンテンツの開発は、地域の活性化や課題解決につながるものとして当社が用意していくが、これまでに話題となった商品として、『憧れの象主』になれるプランがある。1人30万円のプランだが、豊橋の観光課題の解決策として動植物園『のんほいパーク』の象に着目して商品化したところ、珍しさによる話題性もあり注目を集めた。これからのコンテンツ開発では、このようなユニークなものを含め、新幹線に乗って旅に出掛けたくなるコンテンツを幅広く提供していきたい」
――ネット販売で、その他に変わることは。
「EX会員向けのパッケージ旅行商品であるEXダイナミックパッケージ(仮称)は、チケットレスが基本になる。交通系ICカードなどで新幹線に乗車できるようになる上、乗車直前まで列車変更ができるようになり、利便性は格段に上がる。旅先のコンテンツ利用も電子クーポンなどで対応することで、新幹線と合わせて完全なチケットレスも可能になる」
――一方で、なくなるものは。
「駅内店舗は順次、閉店を進め、24年夏には全ての駅内店舗で旅行商品の販売を終了する。一部の主要店舗では、JR券の販売やウェブに不慣れなお客さまへの案内は残す」
――経営改革の時期はなぜ23年夏なのか。
「EXサービスの新施策が始まることに加え、今の旅行商品システムの更新時期が重なった」
――在来線沿線の旅のコンテンツ販売は。
「新幹線とのセットで旅のコンテンツを販売する。在来線部分は、二次交通として、コンテンツの一部という形で販売する予定だ」
――来年度以降は、どのような回復を見込んでいるか。
「コロナ前の収益水準に戻らなくとも、確実に利益を出せるよう、経営改革に取り組んできた。コロナの流行状況にもよるが、コスト削減も進めているので、単年度の黒字は達成したい」
――22年度の展望について。
「コロナを経て、筋肉質な経営体質となった。今後は、お客さまの期待を上回る旅のコンテンツ開発を進め、より良い商品の提供を行っていく。コロナ禍でバーチャルな旅の販売も増えているようだが、一昨年のGo Toトラベル、感染が落ち着いた昨年秋の需要を見ると、リアルな旅の大切さが高まったといえる。移動を伴う旅の提供を積極的に展開していく」
――22年度のキャッチコピーをいただきたい。
「新しい形へと変わる期間は1年半しかない。そこに向けて全力で取り組み、さらに収益を改善していくことを並行して行う『大車輪の年』となる」
※さとう・かずや=日本放送協会を経て、1990年に東海旅客鉄道(JR東海)入社、人事部人事課長、営業本部副本部長などを歴任。2016年6月にJTB常務取締役就任。18年6月から現職。
【聞き手・長木利通】