ツーリズムEXPOジャパン2024 主催3団体トップ座談会


 世界最大級の旅の祭典「ツーリズムEXPOジャパン(TEJ)2024」が9月26日から29日までの4日間、東京ビッグサイト(東京都江東区)で開かれる。東京での開催は2022年以来2年ぶり。観光・旅行のさらなる活性化へ、業界のプロや一般来場者に旅に関する最新の情報を提供する。事業を主催する3団体(日本観光振興協会〈日観振〉、日本旅行業協会〈JATA〉、日本政府観光局〈JNTO〉)のトップらに今回の出展内容や今の観光・旅行を取り巻く状況、ツーリズムのさらなる振興に向けたそれぞれの取り組みを語っていただいた。(東京のJATA本部で)

今年の「ツーリズムEXPOジャパン」のポスターをバックに

 

旅行市場の現状

――(司会=本社編集長・森田淳)旅行市場の現状について、それぞれ伺いたい。

最明 コロナ禍が明けて1年半近く。旅行が世の中から再び注目されだした。

 オーバーツーリズムという言葉に代表されるように、受け入れの許容量を上回るほどお客さまに来ていただいているところが一部である。

 その一部が過剰にフィーチャーされているところもあるが、自分で各地を回ったり、見聞きしたりしている限りで言うと、国内の観光需要は決して好調だとは思わない。

 京都や鎌倉でもにぎわっているのはごく限られた場所だ。円安に大きく振れていることがあり、海外に行く代わりに北海道や沖縄へ、という選択肢もあるが、それ以外の地域で大きく伸びているという声をあまり聞かない。決して好調な状態ではないと感じているところだ。

 日本の人口が減っていく中で、国内旅行のマーケットをどう活性化するかが今の大きな課題だ。

 旅館・ホテルは、稼働率が上がらないところはADR(平均客室単価)を上げて収益を確保しようと努力をしている。ただ、旅館・ホテルは地域における人の交流のハブだ。飲食店や土産店、観光施設に経済的な波及効果をもたらす大きなインフラだと思っている。お客さまの数も確保しないと地域への波及効果が生まれない。付加価値を付けて利益を上げるとともに、お客さまの数を増やす努力も必要なのではないか。

日本観光振興協会(日観振)理事長 最明 仁氏

 

髙橋 観光庁が全国主要旅行会社の取り扱い状況を毎月発表している。われわれJATAの会員を含めた43社の数字だが、直近の6月でいうと、国内旅行と訪日旅行はコロナ前の2019年に対して8割程度、海外旅行は6割程度の回復だ。

 ただ、これらは主要旅行会社の数字で、必ずしも業界全体の状況を表しているわけではない。特に訪日に関しては、日本の旅行会社の取り扱いが少ないため、8割の回復といっても、実際はコロナ前を上回る状況になっているだろう。訪日外国人客数は今年3月から5カ月連続で300万人を超えている。

 一方、国内旅行は、海外旅行に比べると回復が進んでいるが、コロナ前の状態には達していないと肌で感じており、8割という数字は実態とそれほどかい離していないだろう。

 最大の課題は海外旅行、アウトバウンドの復活だ。昨年と比べると3割ほど増えているが、回復のスピードが遅い。

 理由としてはよく言われる円安。旅行費用の高騰。ただ、対ドルの為替の影響をあまり受けないアジア方面はコロナ前の6割以上の回復で、韓国は85%ぐらいまで回復している。

 一方で、われわれが扱う主力の一つ、ヨーロッパやハワイの回復が遅れている。これが大きい。

 クラスター別では、法人需要が好調。3年間ストップしていたインセンティブ旅行や周年旅行が動きだした。個人は富裕層がある程度動きだしたが、最大のボリュームゾーンのファミリーが動かない。為替、費用の高騰が影響しているのだろう。

日本旅行業協会(JATA)理事長 高橋広行氏

 

蒲生 インバウンドは、われわれの想定を超える伸びを示しているが、2030年までに6千万人という目標がある。その目標に向けて、今後どのように事業を進めるかだ。

 オーバーツーリズムの話が出ていたが、インバウンドの方々をいかに地方へ誘致するかがわれわれにとっての大きな課題だ。地方の魅力をプロモーションすることになるが、何かのきっかけである地域が突然人気になって、多くの人が押し寄せたりして、地域の中で問題になっている。各地にバランスよく訪れてもらうための施策が必要だ。

 消費額についても、中国の方がまだ戻りきらない中でも、為替の関係などもあり欧米の方々を含めて活発に動いている。

 為替については今後、さまざまな形で動いてくると思う。その動きに影響されないように、日本の魅力をさらにPRし、それによって長く滞在していただき、より高単価の消費をしていただく、という形にしたい。

 海外の方々もコロナ禍で旅行に行けず、落ち着いたら行きたい、というニーズがあった。その間、お金もたまっていた。行くなら安全で安心して行ける日本へ、と思っていただいたのだろう。日本への関心が高まっているのは事実で、引き続きプロモーションを積極的に進めたい。

日本政府観光局(JNTO)理事長 蒲生篤実氏

 

TEJ、注目の事業

――今年のTEJの狙い、特徴、注目の事業は。

髙橋 昨年は大阪で行い、かなりの盛況だった。今年は再び東京での開催となる。コロナ禍を経て、日本のツーリズムがしっかり復活している姿を国内外に示す絶好の機会と受け止めている。

 特徴の一つは、47都道府県全てから出展いただいていること。各地方の観光復活にかける熱い思いを感じる。

 海外の出展も増えており、出展全体の4割ぐらいになっている。日本からの海外旅行の回復は遅れているのだが、日本人客に来てほしいという海外の国々の熱意と受け止め、われわれはしっかりと応えていかねばならない。

 もう一つ取り上げたいのは、来年、もう半年後に迫っている大阪・関西万博だ。特に首都圏ではまだまだ盛り上がりに欠けている。万博のコーナーを設けて、その機運醸成を図りたい。

 さらにもう一つ。北陸の復興支援も今回のテーマとしている。一般日の2日間、物産展を開催して来場者に北陸の物産を購入いただく。このような北陸の観光復活につながる取り組みを行う。

 数年前から高校、大学、専門学校の生徒等、学生の土曜・日曜日の一般日の来場を無料とした。また、今年は木曜日・金曜日の業界日に観光を専攻する専門学校や大学38校から4500人を超える学生たちが来場する予定だ。さらにうれしいことに、観光学部や学科を持つ大学14校が自身の取り組みをアピールするブースを出展する。

 コロナ禍で観光業界のイメージが落ち、業界に就職を希望する学生が減少した。今回のTEJを観光に対する認識を改めてもらう場にしたいし、海外旅行が低迷している要因の一つに若者が海外に行かないという現状もあるので、旅行の魅力を再認識してもらう場にもしたい。学生の招待はこのような二つの狙いがある。

 来場者数は18万人を目標としており、ぜひとも達成したい。

最明 昨年の大阪でも印象深かったのが、TEJと合同開催のJNTO主催の「VISIT JAPAN トラベル&MICEマート」(VJTM&VJMM)。BtoBの取引のきっかけをつくろうと、多くの団体や企業が参加した。今回の東京開催でも、多くの人に関心を持っていただけるのではないか。

 観光業界は人手不足という問題を抱えている。共同開催の「トラベルソリューション展」で、その解決を図る最新のデジタル技術を生かしたソリューションも出展される。問題解決の糸口になると期待される。

 日本の方々に日本と世界の観光を知ってもらうことがメインとなっているが、20万人近くが来場する大きなイベントだけに、さらに伸びしろがあると思っている。アジア対ヨーロッパとか、ヨーロッパ対アメリカとか、日本以外の国同士の取引の話がここで行われても決しておかしくないし、そうした取り組みも強化していくべきだと考えている。

蒲生 JNTO主催の「VJTM&VJMM」を、2017年からTEJと合同開催している。インバウンドに特化した国内最大の商談会として、定着したのではないか。TEJと一緒に開催することで、相乗効果が表れている。

 海外からの注目度が非常に高まっている。現在、海外のバイヤーが35カ国・地域から280社エントリーしている。

 今回の特徴として、北欧のバイヤーが前回の4社から7社に増えたことが挙げられる。JNTOがこの3月に北欧スウェーデンのストックホルムに事務所を構えたこともあり、日本を旅行先としてさらに認識していただいたのだろう。日本に対する関心が高まっていることは非常にありがたい。

 東南アジア市場では、タイから32社が手を上げていただいた。昨年は18社だった。こちらもありがたいことだ。

 キャンセルがほとんどなく、あってもすぐに埋まってしまうのも今回の特徴だ。

 手前みそになるが、TEJにはわれわれJNTOのブースも今回、初出展する。JNTOという組織と、その仕事を知ってもらうとともに、日本の観光について、特に若い人たちにさらに関心を持ってもらいたいと思っている。

髙橋 今年は海外旅行が自由化されて60周年という節目の年。これについては会場にコーナーを設けるつもりだ。海外旅行への機運醸成にしたい。既にJATAでは60周年のロゴを作り、旅行商品のパンフレット等に使ってもらっている。

 さらに今回、俳優の山口智子さんにTEJのスペシャル・サポーターに就任いただいた。先日、対談をさせていただいたが、旅に対する熱量がものすごくある方だ。世界を何十カ国と回り、音や音楽を通じて地域の人々と交流し、発信している。TEJに最適の方で、初日や一般日にも来ていただく。旅に対する心強いメッセージをいただけるようで、会場は大いに盛り上がるだろう。

最明 全国の酒蔵を巡ってもらう「酒蔵ツーリズム」。われわれ日観振が協議会の事務局を担っているが、このブースも出展する。前回も出展をしたところ、多くのBtoBの取引につながった。今まで酒蔵とツーリズムを結び付ける発想がなかった人の気付きになったようだ。今回も期待している。

蒲生 VJTM&VJMMに合わせて、海外のバイヤーを対象にしたファムトリップを行う。昨年は大阪開催のため、西日本で実施をしたが、今回は東日本を中心に行う。郷土色豊かな伝統工芸やアクティビティなどの体験、さらには地域の人々と交流していただくようなプログラムを用意している。インバウンドの地方誘客や高付加価値化という国のテーマに沿った内容とし、海外のバイヤーにアピールしたい。

 また来年、大阪・関西万博が開催される関係で、万博プラス観光、という観点から、別途西日本コース、さらには被災地支援の観点から北陸コースも用意している。

さらなる振興に向けて

――ツーリズムのさらなる振興に向けて、今後取り組むべき課題は。

蒲生 観光立国推進基本計画が目指す地方への誘客、持続可能な観光の推進。地方への誘客については、地域のDMO、特に広域DMOとの関係をわれわれは深めていかねばならない。

 地域連携部という組織を設置しているほか、職員を地方自治体に派遣させたりしている。このような地域の人々とのつながりを増やすことで地方誘客という目標の実現につながってゆくはずだ。

 消費額の拡大という観点からは、旅行の高付加価値化や、アドベンチャーツーリズムといった新しい領域の観光を進めるための環境整備。地域における質の高いガイドの育成にも取り組まなければならない。

 オーバーツーリズムに関しては、これ以上状況を悪化させないためにも地方への誘客がポイントになるわけだが、地方でも、特にインバウンドについて受け入れる環境が整っているところとないところがある。これらのきめ細かい情報発信が必要だ。

髙橋 やるべきことは山積している。国内旅行に関しては、全国知事会が議論している休み方改革、「ラーケーション」だ。既に、全国で8カ所ぐらいの自治体が導入している。

 ラーケーションはラーニングとバケーションを合わせた造語で、休暇中に学ぶこと。平日に子供が親と一緒に旅行などの、校外学習をする場合、決められた日数の範囲内であれば学校は欠席扱いしない。最近、ある公立高校が年1回最大10日まで親の同行は求めないという画期的な取り組みを開始した。ラーケーションが全国に広がると、日本の停滞する国内旅行の状況ががらりと変わる。

 日本人の年間旅行回数が平均1・3回、宿泊日数が2・3泊と、もう何十年とほぼ変わらない。この最大の原因は平日に休みが取れないからだ。ラーケーションが浸透すれば、国内旅行の総需要の拡大や、土、日に集中している旅行の分散化につながる。

 日本の有給休暇の取得率は先進国の中でも最低だ。経済界全体で取得率向上をしていく必要がある。

 海外旅行に関しては、パスポートの取得率が低下していることが問題だ。今、17%まで下がっている。コロナ前は23%。これも先進国の中で突出して低い。近隣の韓国は40%以上、台湾は60%を超えている。JATAがパスポートの取得支援キャンペーンを行ってきたが、ぜひ、国で行っていただきたい。

 アウトバウンドはインバウンドと表裏一体だ。国が訪日を6千万人にするといっても、それだけの数をまかなえるだけの国際線を維持、拡大していかねばならない。インバウンド需要だけで航空会社が路線を維持することは、特に地方路線は極めて難しい。一定水準の双方向需要があってこそのインバウンドの一層の飛躍や地方誘客が可能となる。

 訪日旅行に関しては、ゴールデンルート以外の主要ルートをつくること。北陸経由のレインボールートや瀬戸内シーニックビュールートがつくられているが、ゴールデンルートはもう飽和状態だけに、新たな魅力あるルートを整備していかねばならない。

最明 各地でプロモーションを行ったり、受け入れ体制を整備したりするには財源が必要だ。宿泊税の導入が各地で議論されているが、われわれも注視をしているところだ。

 私がJNTOに出向した当時、インバウンドは年間300万人台だった。それを1千万人にする目標を国が掲げ、実際に超えると街の風景が一変した。それからあっという間に3千万人。そして6千万人という大目標も決して不可能ではなくなってきた。

 ただ、私が以前所属していた鉄道会社でも相当の議論をしたが、関係する事業者がそれぞれ受け入れの議論をしっかり行ってきたかどうか。行政も6千万人を受け入れる心構えができているだろうか。6千万人といえば日本に住んでいる人の数にかなり近づく。これらの人たちへのケアがしっかりできるような受け入れ態勢をつくるべき時期に来ているような気がする。

髙橋 余談になるが、オーバーツーリズムという言葉は改めるべきではないか。日本語では観光公害と言われるが、せっかく日本に来ていただく方に失礼だと思う。そして、オーバーツーリズムという言葉には混雑による課題と、マナー違反による課題の二つの意味が含まれると思うが、これらをひとくくりにせず、分けて解決していくべきだ。

メッセージ

――TEJが9月26日に開幕する。関係者へのメッセージを。

最明 いよいよ開催直前。業界日、一般日に関わらず、業界に関わる皆さまにはぜひ会場に足を運んでいただきたい。新たな発想でツーリズムに取り組む地域がブースを出展している。さまざまな気付きがあり、仕事でも広がりを見せるはずだ。

 多くの学生が参加をし、ブースも出展する。学生にとっても教職員にとっても多くの知見を得る機会になるだろう。高校でも観光ビジネスの教育が正式に始まり、われわれは高校にも開催の案内を出している。生徒にツーリズム産業で仕事をしてみたいと思ってもらえるようなTEJにしたい。

髙橋 今年のTEJのテーマは「旅、それは新たな価値との遭遇」。ポストコロナ、SDGs、デジタル社会に対応した、新たな旅の形をご覧いただけるだろう。実際に目の当たりにして、学んでいただきたい。

 業界は多くの課題に直面しているが、解決のためにどのような手段があるかも出展を通して学べるだろう。

蒲生 かつてイギリスの貴族は成人する前に世界中を回る体験をしていたという。若い人たちに新たなものの見方を学ぶ場を与えることは本人だけではなく、日本の将来にとっても非常に重要だ。旅やTEJはその場になり得る。

 コロナ禍を経て、本格的に旅ができる状況になった。そのような中で旅への関心をどう高めてもらうか。TEJは有効な場だ。初出展するJNTOとしてもしっかりと有効に活用したい。

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