ハンディネットワークインターナショナル 社長 春山哲朗氏に聞く


春山社長

介護業界起点の旅づくり

要介護者の望むものを追求 高齢期を「グッドタイム」に

 コロナ禍の中、観光業界はニューノーマルな観光のあり方への対応を求められている。要介護者と介護者が従来通りに調和して暮らせるようなオリジナルの介護福祉機器の販売などを手掛けるハンディネットワーク インターナショナル(大阪府箕面市)の春山哲朗社長に、介護業界起点の旅行づくりや多様性への対応などについて話を聞いた。

 ――どのような会社か。

 「父、春山満は24歳の時に進行性筋ジストロフィーを発症し、首から下の運動機能を失った。自分の被介護体験を基に、サポート椅子などオリジナル商品を開発、販売する事業を始めた。創業から約40年、一般の方から施設の方まで幅広く利用していただいている」

 「14年に父が亡くなり、会社を引き継いだ後、要介護者向けのオリジナル企画旅行『グッドタイム トラベル』を始めた。私は子供の頃から要介護者である父が、ビーチやゲレンデで家族と一緒に旅を楽しむ姿を当たり前のものとして見てきた。そこから着想を得た事業だ。当社では、他社では断られることも多い、食事や排せつなど日常生活のほぼすべてに介助が必要となる要介護4以上の人や、医療サービスが必要な人をメインターゲットに、旅による思い出づくりのサポートを行っている」

 「介護スタッフ同行の家族旅行では、介護資格を持つ経験豊富なアテンダントが同行して介護ケアを行う。専属アテンダントがいることで、要介護者が宿泊施設で入浴するなどして過ごす間、家族は観光に出かけることもできる。問い合わせから旅行まで2、3カ月ほどかかるが、当社契約の医師がかかりつけ医との情報共有などを行うほか、宿泊施設と十分に連携することで、安心かつ満足度の高い旅行を実現している」

 ――バーチャル旅行も手掛けている。

 「新型コロナ感染症の流行が始まった20年の春、テレビキャスターが『現地での花見は来年楽しみましょう』と言うのを耳にして、『高齢者には来年の桜を見ることができない人もいるのでは』と思ったのがきっかけで始めた。当社は高齢者施設向けの日帰り団体旅行なども手掛けてきたが、新型コロナウイルス感染症の拡大で、入居者は旅行などの外部との交流機会を失った。映像の桜であれ、花見を楽しんで元気になってもらえたらと考えた」

 「吉野山など全国の有名な桜の名所を撮影した動画を作り、インターネットで無料配信した。その動画を見ながら施設内で弁当などを食べることで、花見気分を味わってもらうことができ、好評だった。『来年の花見を楽しめるよう元気でいたい』という声だけでなく、『こっちの花見の方が良い』との感想もいただいた。体調が不安定な高齢者の中には、バーチャル旅行の方が安心して手軽に楽しめるという人が少なくないことが分かり、可能性を感じた」

 「桜の動画の好評を受けて、夏、秋、冬の動画の無料配信にも取り組んだ。また昨年は新たに、『温泉デリバリープロジェクト』を立ち上げた。第1弾として有馬温泉の動画を制作。施設で映像を見てもらうだけでなく、足湯の設置や有馬温泉のお土産の出張販売なども行った。特にお土産販売は大変好評だった。今後、草津温泉や下呂温泉などを映像化して、施設に届ける取り組みを進めたい」

 ――いくつであれ、旅したい気持ちは変わらない。

 「日本では介護福祉サービスのほぼすべてが、介護保険の適用範囲内で賄われている。そのため、利用者の満足度の追求はなされず、日常生活のための必要最低限のサービスしか、提供されてこなかった。しかし実際には、多少費用が掛かっても、もっと満足度が高い、自分の欲しいサービスを利用したいと望む人は多い。旅行したい人も多いが、要介護になればあきらめる人は多い。当社が父の代から変わらないのは、『望まれていながらも提供されていなかったものを提供する』こと。オリジナルの介護機器も、グッドタイム トラベルも考え方は同じだ」

 「日本の『老い』という言葉にはネガティブかつ支えられるイメージがある。だが、福祉先進国のデンマークで高齢期は、『人生最良の時=グッドタイム』。日本でも最期の時まで自分らしくワクワク楽しむ生き方を広められるような、自分が要介護となったときに欲しいサービスを提供したい」

 ――宿泊施設が要介護度の高い人を受け入れる上で大切なことは何か

 「要介護者の旅であっても、宿選びで一番優先するのは、同行者も共に旅を楽しめる雰囲気だ。介助用機器が充実していても、宿になじんでいなければ介護施設と同じだ。逆に機器が十分でなくとも、事前に十分に情報を共有することで、介護スタッフなどがカバーできる点は多い」

 「要介護の旅行者は宿泊施設で過ごす時間が長く、また貴重な旅行機会を満喫しようと食事や土産物などの館内消費欲が旺盛だ。しかしインバウンド景気を前に、このような国内の潜在客の存在が重視されず、大きなビジネスチャンスが失われてきた。マイクロツーリズムなどが注目されるコロナ禍の今こそ、要介護者や高齢者連れの旅行の可能性を見つめ直してほしい。それがひいてはインバウンドはじめ多様化する旅行者のニーズへの対応にもつながるはずだ」

はるやま・てつろう=高校卒業後、米国留学を経て07年ハンディネットワーク インターナショナル入社。12年取締役、14年から現職。大阪府出身、36歳。

【聞き手・小林茉莉】

 
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