次世代に残すべき伝統的な農業、農村の景観や文化などを認定する国際的なプロジェクト「世界農業遺産」。日本からは現在、5地域が認定されている。富士山や屋久島などが登録されているユネスコ世界遺産に比べて認知度は低いが、認定地域が持つ地域資源の価値では負けていない。世界農業遺産を観光振興にも生かそうと、認定地域は共同でPRの強化に動き出している。
世界農業遺産は、国連食糧農業機関が2002年に開始したプロジェクト。ユネスコ世界遺産が、遺跡や歴史的建造物、自然などの“不動産”を登録するのに対し、世界農業遺産は、伝統的な農業の“システム”を認定する。現在の認定地域は13カ国、31地域。
日本の認定地域は、「トキと共生する佐渡の里山」(新潟県)、「能登の里山里海」(石川県)、「静岡の茶草場農法」(静岡県)、「阿蘇の草原の維持と持続的農業」(熊本県)、「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環」(大分県)。
認定地域を持つ5県で構成する世界農業遺産広域連携推進会議は10月29日、東京都内で世界農業遺産をメディアなどにPRする会合を開いた。認定地域の知名度の向上、農林水産物の紹介はもとより、世界農業遺産に選ばれた地域資源を観光素材としてアピールするのが狙いだ。
会合では県や地域の担当者が、認定地域の魅力を紹介し、観光への活用事例などを説明した。
国東半島・宇佐地域は、芸術祭や博覧会で地域の魅力に触れてもらう体験プログラムを展開。国東半島宇佐地域世界農業遺産推進協議会の林浩昭会長(はやしファーム代表)は「国東半島峯道ロングトレイルの取り組みと連携するなど、農業景観や地元食材に親しみ、農家と交流するプログラムなどに力を入れていく。別府や由布院の滞在客にも足を伸ばしてもらえるようにしたい」と話した。
佐渡地域では、トキの野生復帰を支える農業の推進が評価された世界農業遺産に加え、金銀山のユネスコ世界文化遺産への登録、地質資源の世界ジオパークの認定を目指している。佐渡市農林水産課生物多様性推進室の藤井隆博・生物共生推進係長は「佐渡の誇る遺産をブランドにしたい。観光施策との連携により体験プログラムを整備し、交流人口を拡大したい」と語った。
能登地域は、白米千枚田の景観のほか、農家民宿で教育旅行の受け入れに成果を上げている春蘭の里、来年3月放送開始のNHKの朝のドラマ「まれ」に登場する揚げ浜式の塩田、体験・食事プランに活用され始めた農村の神事「アエノコト」などをPR。
静岡地域は、ススキなどを茶園の有機物に活用する茶草場農法をテーマに、貴重な植物や昆虫を育む茶草場を散策したり、茶の手揉みや入れ方を学んだりできる掛川市の茶草場ツーリズムの取り組みなどを紹介した。
阿蘇地域は、世界農業遺産への登録を契機に、保存、継承が危ぶまれている阿蘇の景観、文化、自然などを県が募集して登録する制度を立ち上げた。登録された地域資源を観光に活用することを検討し、次世代への保存、継承の活力する考えだ。
認定地域を持つ5県で構成する世界農業遺産広域連携推進会議では、来年5〜10月にイタリア・ミラノで開かれるミラノ国際博覧会(万博)に出展し、日本の世界農業遺産の認定地域をPRする予定。国際的な認知度の向上を目指す。
東京で行われた推進会議の会合(10月29日)