つまり、片側で行政による監査と処分により規制の実効性を担保しつつ、もう片側では安全を中心とした品質向上に真面目に取り組んでいる事業者が自然と市場から選ばれていく環境を整備すべきだった。安全性の可視化と、旅行者(最終消費者)自身がバス事業者名を選ぶことができる仕組み作りの2点である。
一つ目の安全性可視化については、バス業界では事業者の具体的な取り組み内容を公開することが逆に不安感を旅行者に与えることになるのではないかという懸念から、各社とも積極的に取り組んでこなかった。
しかし、先述の「貸切バス事業者安全性評価認定制度(通称『セーフティバス』)」が2011年から運用開始され、バス事業者の安全性について第三者的な評価が可能になったこともあり、ウェブサイトなどで、同制度の認定状況のほか、写真を用い自社の取り組みの内容を具体的に掲載する事業者も増加した。
また、12年に群馬県の関越自動車道で発生した高速ツアーバス事故の直後に実施された緊急対策では、筆者の提案を採用いただき「高速ツアーバス表示ガイドライン」が制定され、交替運転手の有無や行程中の休憩箇所などの情報について、ウェブサイト上の表示や車内外(乗降扉付近など)への掲出が義務付けられた。
この義務自体は高速ツアーバスの乗合移行(13年)によって不要となったが、一般的な貸し切りバス(バスツアーなど)への応用も選択肢の一つだと考えている。
むろん、毎日決まったコースを運行していた高速ツアーバスと異なり、表示に関わる手間は大きい。また、多くの旅行者はいちいちそのような表示を確認しないだろう。
それでもあえて表示にこだわるのは、一つにはそのような表示を続けることで旅行者の間で「バス会社を選ぶ」という意識を少しずつでも醸成するためである。
それ以上に重要なのは、事業者側の「どうせバレないだろう」「少しくらいはいいだろう」という意識を排除するためである。
(高速バスマーケティング研究所代表)