佐賀県の嬉野温泉が人に優しい地域作りに取り組んでいる。温泉地に「佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター」(小原健史会長)を新設。障害者や高齢者へのバリアフリー情報の提供と旅行支援、旅館などに対する施設改修のアドバイスを行っている。新幹線駅の開業を10年後に控える同温泉だが、温泉地のバリアフリー化で一層の観光客誘致、地域活性化を図りたいとしている。
センターは嬉野市が昨年3月に発表した「ひとにやさしいまちづくりプラン」の一環で同年5月31日に創設。12月6日、観光協会、旅館組合と同居する形でバスターミナル1階に事務所を開設した。
活動の内容は(1)バリアフリー旅行の支援とバリアフリー情報の提供(2)施設などへのハード整備の助言と提案(3)旅を楽しむための機材の提供や各種相談への対応(4)障害者イベントの企画と主催──の4点。
広さ約240平方メートルの事務所にはバリアフリー情報を求める観光客に対応する事務局員が常駐。事務所には車いす対応のトイレを完備したほか、観光客用に車いす6台、旅館用に入浴用移動リフト1台を常備、必要な人に無料で貸し出している。この4月にはAED(自動体外式除細動器)も設置した。
施設のバリアフリー化に温泉地内の旅館・ホテルも動き、この春、2軒の旅館がバリアフリールームを新設した。そのうちのひとつ、和多屋別荘はタワー館最上階に展望風呂や車いすで方向転換が可能な広いトイレを備えた客室を新設。女将プロデュースのおしゃれな内装もあいまって顧客の評判も上々という。このほか入船荘も車いすで進入可能な風呂とトイレを備えた客室を新設した。
同様のセンターは三重県の伊勢志摩に続いて2件目。嬉野では先行する伊勢志摩バリアフリーツアーセンターの中村元理事長を迎えて勉強会を実施。バリアフリーの理念を学び、同地のセンター開設に生かした。
自らも障害を持つセンターの小池良三専務理事・事務局長は「障害を持つ人が旅行に行かないのは、旅行先(のバリアフリー状況)が見えないから。そこを見えるようにすれば行きたいという人がたくさん出てくるはず」と、バリアフリーに関する情報提供の必要性を強調。
「100人の障害を持つ人がいれば、100通りのバリアが生まれることになる。完ぺきなバリアフリー、ユニバーサルデザインはあり得ない。それぞれのお客さまに細かく対応できるシステムづくりが必要だ」(小池氏)と、ハード、ソフト両面での対応に今後も力を入れる。
センターの事務所。観光用に車いすの無料貸し出しも行っている