全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連、佐藤信幸会長)は3月29日、東京の全国旅館会館で緊急の正副会長会議を開き、旅館・ホテルの経済的、精神的負担増が懸念される耐震改修促進法の改正案について、今後の対応を協議した。負担の軽減に向け、建物の耐震診断と耐震改修に関わる補助金制度の拡充や、耐震診断の結果公表についての事業者への十分な配慮など、5項目を柱にした要望事項を固め、近く国会議員らに陳情することを決めた。
耐震改修促進法(建築物の耐震改修の促進に関する法律)は、阪神淡路大震災で旧耐震基準の多くの建物が倒壊したことを受け、1995年に施行。1981年以前の旧耐震基準で建築された建物について、新耐震基準の建物と同等以上の耐震性能を持つよう所有者は診断、改修に努めなければならないとしている。
国土交通省が今通常国会へ提出を目指す改正案は、旅館・ホテルなどの一定規模以上の建築物について、2015年末までの耐震診断実施と報告を義務付け、診断結果も公表するもの。対象は5千平方メートル以上で旧耐震基準の建物。
また、改正案では、新耐震基準を満たした建物が表示できる、消防の「マル適マーク」のような制度も創設するとしている。
耐震診断と耐震改修には国と地方公共団体(市町村)による費用の補助制度もあるが、地方により補助率に差がある。2013年度予算では、診断では最高100%から最低3分の1、改修では最高66.6%から最低11.5%の補助率となる。地方の補助制度がない場合、診断は国費の3分の1の補助のみで事業者の自己負担が3分の2、改修は国費の11.5%の補助のみで、自己負担が88.5%となる。
全旅連では、耐震化の重要性を理解した上で、全ての地方公共団体が補助制度を確立することや、改正案で対象とならない5千平方メートル未満の建物にも今年度から設定する国からの追加補助金を拠出することなど、旅館・ホテルの経済的負担を緩和する施策を要望として決定。
また東日本大震災で多くの被災者を受け入れた実績を背景に、旅館・ホテルを緊急時の宿泊避難所として認定し、改修に関わる補助率を増加するよう併せて要望する。
さらに耐震診断の結果公表に関しては、公表の方法、期間を十分考慮すること、また表示制度の創設は診断の実施期限の2015年末以降に延期することも求める。
これら正副会長会議であがった5項目の要望は今後文言を精査し、正式な要望書としてとりまとめる。
正副会長会議後に記者会見した佐藤会長は「(2015年末までの)2年と少しの期間で耐震診断、改修まで行うとは、あまりにも性急な話だ。診断結果を公表することは、われわれにとっては死活問題だ。耐震工事を終えるまでには数年かかる。法の趣旨は理解できるが、時間的な猶予がほしい」と訴えた。
大木正治会長代行は「(マル適マークのような)表示制度は結構なことだが、診断の対象外となる5千平方メートル未満の旅館・ホテルはどうなるのか。マークがないことでお客さまから危ない建物だと思われることを危惧している」と述べた。
工藤哲夫常務理事は「地方の補助制度の有無により、施設の(耐震診断、改修に関する)負担率が大きく異なる。国と地方の方針が必ずしもかみ合っていない。国から地方に方針をしっかり根付かせてほしい」。
横山公大青年部長は「4月25日の青年部総会の翌日、観議連(自民党観光産業振興議員連盟)をはじめ、国会議員の方々に陳情を行う予定だ」と今後の活動方針を述べた。
会見する(左から)工藤、佐藤、大木、横山の各氏