
亀岡専務
全国約1万5千軒が加盟する宿泊業界最大の組織「全旅連」(全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会)。業界を取り巻く諸問題の解決に、井上善博会長(福岡県・六峰舘)を中心に、役員や各メンバーらが日夜動いている。事務方トップの亀岡勇紀専務理事に最近の動きと今後の方針を語ってもらった。
――専務理事就任から間もなく2年たつが、これまでの振り返りをお願いしたい。
元々自分自身は国会議員秘書を務めていたのだが、その当時から、「全旅連」という名前の知名度が低いと感じていた。それは旅館・ホテルに関する団体が多いせいもあるのかもしれないが、いずれにしても、「全旅連」の知名度の向上がまずは大事だと考えた。
そのため、全旅連を所管する厚労省だけではなく、観光庁をはじめとした国交省、さらには、環境省、文科省、総務省など、さまざまな関係省庁に顔を出すようにし、関係団体の会合にも厚労省の枠を超えて参加するようにしてきた。
しかし、歴史を振り返ると、かつて全旅連は永田町や霞が関で強い影響力を持つ団体であった。2000年3月31日をもって廃止された特別地方消費税について、その廃止運動を主導された小原健史元会長や当時の永田町の関係者に話を聞くと、当時の全旅連の影響力は本当にすさまじかったと聞く。
鈴木治彦青年部長時代の時から、私も国会議員の秘書として関わっていたが、それ以降の、星永重青年部長、塚島英太青年部長と、毎年2回、自民党の国会議員の先生方全員に青年部員が直接足を運ぶ要望活動を行うようになり、また井上会長にも、就任以降は毎週のように議員会館に足を運んでもらっている。決して華やかではないが、このような地道な活動もあり、議員会館内での知名度はかなり上がっているなと感じており、そういったことが各都道府県組合が地元で活動するときなど、見えない部分で大きなプラスになっていると感じている。
業界の先人たちのおかげもあり、平河町に全旅連の事務所もあるので、今や多くの国会議員をはじめとする政界関係者、関係省庁の人たち、マスコミの皆さんにも毎週のように訪れていただき、意見交換ができている。
井上善博会長の就任以来、宿泊観光業界のために一定の成果を出してきたと自負している。
例えば、国民スポーツ大会における、いわゆる「負け帰り」の問題。これまでは、選手が負けてしまうと、その日の宿泊分に加えてプラス1泊のキャンセル料しか頂くことができなかったが、2025年の滋賀大会では、通常の予約のように取り扱う運用にしていただいた。
これは滋賀県旅館組合の前川為夫理事長をはじめとした、現地の組合員の皆さんの働きが大きいが、このような全国各地の組合の皆さんのお話も伺いながら、業界全体として少しでもいい方向に向かうように活動していくのが全旅連本部の役目だと考えている。
この問題についても、「今後の国民スポーツ大会の在り方を考える有識者会議」が設置される中、さまざまな関係者とも調整し、JKK(全旅連女性経営者の会)の高橋美江会長に経済界を代表する4人のうちの1人として検討会の有識者にご就任いただいた。高橋会長のご尽力もあり、今後の国スポにおける早期敗退に伴うキャンセル料の運用についても、われわれ宿泊観光業界の意見も取り入れていただき、「宿泊施設、参加団体、運営主体それぞれにとって持続可能なものとなるよう、引き続き配慮する」という文言が、提言案の最後に追加された。一つの大会で解決されたから終わりではなく、きちんと長期的に継続的に対応していただけるよう問題解決に努めていきたい。
今年でいえば、3月11日の閣議決定で特定技能の外食分野において、風営法の許可を受けている宿泊施設における特定技能人材の受け入れが緩和されることにもなった。
組織の体制が整いつつある中、会長からは「今年は、全旅連の事務局職員が地域により足を運び、地域の現状・課題を教えていただき、なんとか課題解決できるように」との指示も頂いている。
――全旅連の決算が、過去最高益だと聞いた。その要因をお聞きしたい。
近くでお仕えしているが、ひとえに井上善博会長の経営者としての手腕によるものだと認識している。井上会長は、組織としての大きな方針を示してくれる一方、細かい政策、そして事業の執行等は専務理事である私以下に任せてくれる。もちろん、責任は組織のトップである井上会長が取ってくれる。私としてもその期待に応えなくてはいけないと思っている。
そんな中、私も専務理事に就任して以来、「○○は、できない。〇〇で、決まっている」等の話をこれまでの役員や事務局の方に聞いてきたが、実際にウラを取ってみるとそのような事実がないということが多く見受けられた。そういったことを一つ一つひも解き、宿泊観光業界、そして一人一人の組合員のために当たり前のことを当たり前に行うというのが、成果に結びついたのだと思う。
また、全旅連で運営の一部を受託している宿泊業技能試験センターについても初の黒字化がなされた。試験センターの理事長については、全旅連で会長代行も務められている西海正博北海道組合理事長にご就任いただいた。また、業務の執行にあたる事務局長には、さまざまなメンバーでお願いして、宿泊観光業界のことを熟知しつつ、事務能力も非常に高い石坂亮介さんに就任してもらった。
現在の技能実習制度や特定技能の試験官等の制度などは、持続可能とは全く思えない形になっている。いまは、各都道府県の組合員の皆さまに協力をいただき、なんとか運営しているが、制度が改善されるように関係者と厳しく議論も行っている途中であり、近いうちに成果についてもご報告できると確信している。
――井上会長、そして亀岡専務が就任して以来、全旅連としてさまざまな成果を上げるとともに、職場の雰囲気も明るくなったと思う。亀岡さんが全旅連専務として心がけていること等をお聞きしたい。
私自身が元々この宿泊観光業界に、旅館の家に生まれた、というような縁があるわけでもないため、日々勉強だと思い、積極的に地域に伺い、地域の宿にも宿泊させていただき、関係者の皆さまからいろいろと教えていただいている。
また、全旅連という非常に歴史ある組織の専務理事として仕事をしていくためには、組織の歴史・成り立ち等をしっかりと学ぶことが重要であり、その一環として生活衛生法成立後の初代会長である山田彌一さんの伝記を読んだ。当時の山田会長が来られる前の全旅連もなかなか大変な状態であったようだが、山田会長と当時の大谷勲専務の血のにじむような努力により、組織は大きく変えられた。
井上会長、そして私が専務に就任した時の全旅連もそれに近い状況があったと思う。
まずは組織として当たり前であることに一つ一つ変えていった。職員一人一人が互いにコミュニケーションを取りやすい雰囲気づくりは、まさにその一つ。この全旅連で働いている職員の共通の目的は、「宿泊観光業界を良くすること。観光立国・日本がうたわれる中、この業界を国の基幹産業にすること」である。各職員がその共通の目的に向かって仕事をしているわけであるので、それぞれが何をやっているかお互い知っておくことは当たり前である。また、観光という仕事の性質上からも、一定の「遊び心」的なものも重要であり、普段の何気ない会話の中から課題解決に向けたソリューションが見いだされることもある。そういう意味でも職員が明るく楽しく仕事をすることが何より重要だと考えている。
職員の数も、昨年の3月には私以外の職員がわずか3名となっていたが、この新しい全旅連の組織のあり方に魅力を感じていただけたのか、4月以降は職員も徐々に増え、今や10名を超す職員で全旅連の組織運営をしているところである。先ほども触れていただいたが、こうした中、最高益での着地という成果を出すことができた。
――今、亀岡専務の感じている全旅連という組織が抱えている課題についてお聞きしたい。
この2年間で全旅連の組織改革はだいぶ進んだと思うが、一方で、まだまだ組織として未熟な点も多くあるという現実を謙虚に直視しないといけない。
一つ例を挙げさせていただくと、ある災害対応に関する国の調査を全旅連で行った。FAXで直接施設に送れば回答数が増えるということをおっしゃられる方もいたので、実際に1万1897軒にFAXを送った上、47都道府県組合の事務局経由で複数回メールも配信し、あらゆる場所での告知も行った。しかしながら、登録・回答の件数は、246件。残念だがこれが現実。最終的には1200件を超すことができたが、それは、青年部やJKK、私を含めた本部の事務局が知り合いの組合員に声掛けをして数を伸ばしたものである。
同じような話ではあるが、全旅連本部からの情報が組合員の手元にまで届いていないということも聞く。国際線のフライトの機内でも、連絡ができるこの時代にだ。これまでは、全旅連本部から各都道府県組合、そしてそこから各組合員という情報の伝達方法だったが、このデジタル化の時代なので、組合員に直接、本部からの情報が届くよう、紙媒体も含めて、何とか、令和7年度中に対応したいと考えている。
全旅連の最大の強みは、業界での最大の組合員数ということでもあり、それを生かすような組織づくりが大切。一方で、数だけ多くても何の意味もない。一人一人の組合員がしっかりと業界全体のことを考えて活動し、47都道府県の各旅館組合がそれをまとめ、さらに全国組織である全旅連がそれをまとめ、といったように、組織内のガバナンスをしっかりしなければいけない。今の現実をしっかり受け止めた上で、引き続き、組織の改革に取り組みたいと思う。
――亀岡専務の今後の抱負をお聞きしたい。
井上会長は、「全旅連の事務局の仕事は、もちろん会長である自分のためにでもないし、各都道府県組合や、その理事長のためでもない。地域の組合員、施設で働く従業員のため、地域のためだ」とおっしゃっている。会長のこのお言葉は私の中では金科玉条としており、組織運営の中で迷ったことがあれば、常にこの言葉を思い出すようにしている。
私自身、日本全国の地域、そしてそこにある宿を訪れるたびに、本当に日本の宿はそれだけをみても世界に誇るべきものだと思う。「宿は地域のショーケース」とはよく言ったものであり、宿の建築様式、設え、食事、温泉、そしておもてなしなどは、本当に地域ごとに色があって面白い。宿自身に文化、いわゆる「宿文化」があると言える。
コロナの影響もあり、本当に厳しい経営状態が続いている宿も多くあるが、なんとかここを耐えて、年数が過ぎていけば、世界にない独自の形態をもつ宿泊施設の存在価値はますます高まると思う。
そういった宿、宿の経営者、そしてそこで働く人たちのために何ができるかということを常日頃から考えている。そうした方々の声をよく聴き、そうした声を関係省庁や政治家の先生方にも伝え、さらに全旅連も主体性を持って霞が関や永田町と一緒に政策を考えていき、必要な制度をつくりあげる。または、既存の制度を改めていき、地域の宿を支えることができないかと思っている。
私自身、地域に魅力的な宿があることで、地域への滞在時間が増え、宿は域内消費率も高いので、宿泊施設の存在そのものが地域を支え、地域経済、そして地域文化を支えていくことになるのではないかと考えている。
全旅連の職員にも、「自分たちが宿泊施設を支えることで地域が守られ、日本の文化が守られているのだ」と伝えているが、専務理事として、その先頭に立つ者として、気概をもって取り組んでいきたい。
先日、青年部長を経験された山口敦史さん、鈴木治彦さんの青年部時代の仲間たちが、大学生から1歳の、将来の跡継ぎ候補である子供たちを連れて家族会を開催し、私も参加をさせていただいた。一番小さい子が成人する20年後、私は51歳。それまでこの宿泊観光業界のために微力を尽くすつもりだが、この子たちが将来、働きたいと思える業界にすること。そして、この子たちに恥じないような活動をしていきたいと思った。
井上会長の2期目が、不信任2票という圧倒的な得票数でスタートすることになる。新体制では、常務理事を8名配し、それぞれの方が「部会」という形で業界の諸問題に対応する。これからは、全旅連だけではなく、宿泊観光業界が変わったなと思われるように私も、努力を続けていきたい。
6月17日の全国大会をはじめ、全旅連の情報発信で多くの人が組合の存在意義を感じられるような1年にしていきたい。
亀岡専務
事務局のオフィスを一新。業界の会合ほか、一般への貸し出しも行えるよう、会議室を100人収容規模に拡充した