取引先の旅館・ホテルから、ディナーショーのチケットやおせち料理などを購入するよう要請された。公正取引委員会が実施した納入業者へのアンケート調査によると、取引先の約4割からそうした要請を受けていた。調査をもとにした報告書を16日に公表した公取は、取引の状況によっては独占禁止法で規制されている優越的地位の濫らん用にあたる恐れがあると指摘し、旅館・ホテルの経営者、宿泊業団体に自主的な点検や改善を呼びかけている。
公取は、優越的地位の濫用行為に対する取り組みを重視し、法的措置や警告公表を行う一方で、実態調査の公表などによる未然防止を目指している。これまで大規模小売業者と納入業者の取引に関する実態調査などを公表してきたが、サービス業での実態を探ろうと、旅館・ホテルに関する調査を初めて実施した。
実態調査では旅館・ホテルに商品、サービスを納入、提供している全国の中小企業を対象に、2010年から2年間の取引について書面で聞いた。有効回答数は1625社。うち29社にはヒアリングも実施した。旅館・ホテル側には調査は実施していない。
納入業者の回答によると、優越的地位の濫用となる行為類型として公取のガイドラインに例示されている「不要な商品等の購入・利用要請」では、調査対象の取引(5975取引)のうち、「要請を受けたことがある」のは42.4%(2533取引)に上った。
購入・利用要請の内容は複数回答で、「ディナーショー、歌謡ショー、お笑いショー等の催事・イベントのチケット」の購入要請が60.3%、「ホテル等の施設で有償で催される納入業者会の懇親会」への参加要請が38.1%、「クリスマスケーキ、おせち料理等の季節商品」の購入要請が32.2%などだった。
購入・利用要請があった取引を旅館・ホテルの業態別にみると、シティホテル(大都市中心部の大型・多機能ホテル)で55.4%、コミュニティホテル(地方都市、大都市郊外の中規模ホテル)で58.4%、リゾートホテルで39.6%、観光旅館で33.6%、ビジネスホテルで23.1%。
購入・利用要請に対する納入業者の対応では、「購入・利用したことがある」が81.1%。要請に応じた理由は、「取引上のマイナスが生じることを懸念して購入した」「取引が有利になり、売上増が見込めると思ったので購入した」など。
納入業者からは、「ディナーショーのチケットなどの購入をほぼ毎年要請され、慣習化している」などの指摘が寄せられ、なかには「イベントチケットなどを送り付け、一方的に支払い債務と相殺してくる」などのケースも。また、旅館・ホテルごとの納入業者で構成する「業者会」を通じた購入・利用要請の事例なども挙がっている。
公取事務総局は「報告書は納入業者の言い分に基づいており、必ずしも優越的地位の濫用にあたる行為とは限らない。ただ、取引の状況によっては違反行為につながる可能性がある。旅館・ホテルの経営者らに自社の状況を確認してもらいたい」と話す。一方で、旅館・ホテルが不利益を被っているような取引の実態があれば、今後調査を行うことも検討するとしている。