国交省研究会が旅館の金融問題で提言


 国土交通省は9月28日、旅館経営者などをメンバーに今年2月に設置した「旅館業に係る金融に関する研究会」での議論を報告書にまとめた。装置産業である旅館業は、借入金の返済が重く、バブル崩壊後は設備投資への資金調達も難しい状況にあり、旅行者ニーズに対応できず収益力が低下している。政策的な支援が必要として、旅館の事業特性を踏まえた政府系金融機関の貸付制度や、生産性や収益力の向上につながるモデル事業などの具体化を求めた。旅館業の金融問題をテーマに国交省が研究会を設置したのは今回が初めて。旅館業の経営基盤の強化、確立は、「観光立国の推進のための重要課題」との位置づけを明確にしている。

 研究会は、旅館団体の役員を務める旅館経営者や経営コンサルタント、国交省観光事業課長など8人で構成。旅館業の金に関する政策面での対応のあり方を5回にわたり検討した。金融庁、中小企業庁、日本政策投資銀行、中小企業金融公庫の担当者を招き、ヒアリングも実施した。

 報告書は、旅館業が、地域での観光客受け入れの中核を担い、日本の伝統と文化を守る重要な役割を担うと指摘。経営基盤の強化、確立を観光立国の重要課題と位置づけた上で、支援施策の方向性として、(1)旅館業の生産性・収益力向上のためのイノベーション促進施策の充実(2)旅行者ニーズをふまえたリニューアル投資の促進(3)金融支援・事業再生の推進(4)地域と一体となった集客力向上への取り組みの推進──を挙げた。

 施設リニューアルなどの設備投資の資金調達では、旅館業の事業特性に合った融資制度を求めた。旅館業は、建物などの資産の償却期間が他産業に比べて長く、投下した資金の回収に長い年数を要する。特に設備投資後の数年間は、資金繰りが厳しいことから元利払い負担を軽減する公的金融機関の貸付制度などが必要だと訴えた。

 金融改革と資産デフレで新規運転資金の導入も難しくなっている。「金融機関の不良債権処理として、既存債務の返済の強要(貸しはがし)や新規貸し出しの拒絶(貸し渋り)などが増加した」と指摘。旅館業の倒産が増える中、事業再生が可能な施設でも必要な金融支援が受けられない事例や、「経営破たんした物件を安く手に入れた新経営者が低価格攻勢をかけて、地域内の他の旅館を圧迫するような事例」もあると触れ、地域全体の活力低下を懸念した。

 金融支援や旅館再生に向けて、各都道府県に設置された中小企業再生支援協議会を有効活用すべきたと提案したほか、政府が検討している「地域力再生機構」の設立に向けた議論や、来年10月に中小企業金融公庫などを統合して発足する「日本政策金融公庫」の施策などに注視を促した。また、ファンドやリート(不動産投資信託)の活用を選択肢に含め、所有と経営の分離など旅館の事業再編を検討する必要性にも言及した。

 一方で、旅館業の生産性や収益力の向上が急務だとして、新たなビジネスモデルの構築を重視した。旅館間の共同化によるバックヤード業務の効率化、季節波動に伴う人材流動化などを事例に挙げ、旅館業のイノベーション促進につながる実証事業などの支援施策の必要性を強調。「旅行者への情報提供方法や流通構造の改善なども検討すべき」と提言した。 

 地域一体で集客力を向上させる施策の充実も不可欠だと指摘。旅館経営の基盤は、地域の魅力とそれに伴う集客力にあるとの認識から、地域全体の底上げ、高度化を求めた。泊食分離の導入や着地型ツアーの造成、外国人観光客の受け入れ態勢整備など、地域一体の取り組みに対して、総合的、集中的な支援措置を要望した。

 研究会の議論に加わった花角英世・観光事業課長は「研究会の議論を政策に反映させたい。旅館の経営基盤を強化するには、地域の中で生きる旅館という視点がますます重要になる。個々の旅館への支援措置はもとより、地域全体の魅力を向上させる政策が不可欠だ。地域との連携、複数旅館の連携、さらには異業種との連携などを通じた旅館業のイノベーションを促進したい」と語った。

 国交省は、来年度予算の概算要求に「観光産業イノベーション促進事業」「国際競争力のある魅力ある観光地づくり」など、旅館業にも活用を期待する支援施策を計上。中小企業金融公庫の貸付制度には、融資後5年間の元利払いに低金利を適用する制度改正を要望している。

 
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