長湯温泉などの温泉がある大分県竹田市は来年4月から、療養を目的とした温泉利用者を対象に温泉利用料を割り引く制度を創設する。同市からの補助金と、企業、医療機関からの協賛金で基金を作り、割引した利用料の差額分を温泉施設や旅館に支払う仕組み。日本には湯治などの温泉療養の歴史があるが、現在は健康保険適用外。竹田市の取り組みは温泉をめぐる新しい取り組みとして注目を集めそうだ。
割引制度は、竹田市民と同市に5泊以上滞在する観光客が対象で、対象者には新たに創設する市経営の基金管理団体「温泉療養保険組合(仮称)」が独自の保険証を発行する。利用者は、組合指定の医療機関が発行した温泉への継続的な入浴を指示した処方せんと保険証を提示することで、割引料金で入浴や宿泊ができる。
温泉を持つ旅館・ホテルや入浴施設に参画負担金などはなく、保険証利用があった場合には、組合から正規料金と割引料金の差額分を支払われる。
市では血行促進などの効果があるという炭酸泉の長湯温泉のほか、運動浴が可能な深い浴槽がある竹田温泉など、市内にある多彩な温泉地に参加を呼び掛ける考え。
長湯温泉は07年12月に「日本一の炭酸泉」を宣言、この中で「国際的視野に立った温泉地療養を目指す」とアピールするなど、温泉療法の確立に積極的な動きを見せてきた。長湯温泉協会の首藤文彦会長(宿房翡翠之庄)は「市全体で『温泉療養文化都市』を目指しており、今回の市の方針は目標達成の大きな一歩となる。ぜひ実現させてほしい」と期待する。
「温泉は歴史的にみると病気やケガの治療に利用されてきた。これは世界的な傾向であり、特に欧州諸国では医療との結び付きが強く、温泉療養に関して健康保険が適用されている」というのは日本温泉協会の滝多賀男会長。滝会長によると、現在日本の温泉療養は、健康保険の適用外となっているが、多くの人が温泉の効能を期待して療養を実践している。同温泉も健康保険適用に向けて働きかけを行ってきた経緯がある。
滝会長は「斬新な試みであり、国民の温泉の効果に対する期待に対応していると言える。このような取り組みが広がり多くの地方自治体で温泉療養への助成などが実施されるようになれば、各地で温泉療養の効果例として積み上げられることになり、健康保険適用への大きな足がかりとなるだろう」と注目する。
市では6月から関係部局の課長らによる内部協議を重ねており、法制度上の問題の有無などを話し合ってきた。23日には市と長湯温泉旅館組合、同源泉かけ流し協会、竹田直入温泉連絡協議会による会合が開かれ、首藤勝次市長(大丸旅館)が制度の考え方などを説明するなど、4月の制度開始に向けた動きが進む。
市には全国の温泉地や自治体から制度についての問い合わせが相次いでおり、今後ますます注目を集めそうだ。