観光庁モデル事業 観光発信、環境改善探る
乳頭、草津、栃木の3地域
乳頭温泉郷(秋田県仙北市)、草津温泉(群馬県草津町)、栃木県は、観光庁のモデル事業を活用し、旅館・ホテルなど地域の観光産業を担う実務人材の採用、定着に取り組んでいる。3地域は人手不足の深刻化、将来の人口減少を踏まえ、単独の施設ではなく、旅館組合や観光協会、DMOなど地域を挙げた事業として、働く魅力の発信や採用活動の在り方、働き方や働く環境の改善策などを探った。
観光庁の「地域における観光産業の実務人材確保・育成事業」に採択された乳頭温泉組合、草津温泉観光協会DMO人材育成部会、栃木県観光物産協会がモデル事業を実施した。1月下旬に東京、仙台、大阪で開かれた観光庁主催のセミナーで取り組みを報告した。
◆乳頭温泉郷
乳頭温泉郷には中小規模の旅館7軒があり、国内外の旅行者に人気だが、山間部に立地し、通勤圏や社員住宅が限られるなど、各施設では慢性的な人手不足に悩み、地域の人口減少による将来への不安も小さくない。
課題の採用活動の強化では、施設ごとの対応には限界があり、乳頭温泉組合として共同で取り組んだ。秋田県の就職フェアに参加し、求職者と面接を行い、アンケート調査を実施した。宿泊業の仕事を理解してもらう目的でインターンシップを募集し、大学生、専門学校生2人を受け入れた。
働く魅力の発信では、自然豊かな環境の中、湯守、接客係、ネイチャーガイドなどが働くプロモーション動画を作成してネットで発信。移住定住専門誌にも特集記事を出稿した。新たな働き方では、「中抜け」の時間帯である午前9時~午後3時の枠でパートタイマ―を募集し、2人を採用した。
今後取り組みを強化、持続するには、採用活動にかかる人材・予算の確保などのほか、勤務・職場環境の改善を課題に挙げた。乳頭温泉郷の旅館、妙乃湯の佐藤貢一郎社長は「人口減少の時代に、経営者が根本的な意識改革をし、働きやすい環境を作らないと人材は集まらない。企業が構造的に変化しないとならない」と語った。
◆草津温泉
草津温泉は、入り込みが年間約320万人に達し、好調に推移しているが、将来の人口減少による人手不足は不安材料。草津町の人口は約6400人だが、推計のパターンによっては2040年に4300人程度まで減少し、生産年齢人口は2千人を下回る。
草津温泉観光協会のDMO人材育成部会は、人材の定着、育成をテーマに、町の合同入社式「来草歓迎式」、町内で働く人が月1回集う交流会「あつまらナイト」、仕事に役立つ研修会「草津塾」などを開催してきたが、さらなる雇用環境の整備に取り組んでいる。
人材確保に外部の目線を生かすため、東洋大学国際観光学部のゼミと連携し、19年12月に大学生を草津温泉に招いた。「草津は働きやすい環境なのか」などのテーマで実施した現地調査をもとに課題や改善案を提起してもらう予定だ。
人材確保の現状や効果的な手法を検討するため、宿泊施設の人事担当者による情報交換会を開催したほか、人材定着のKPI(重要業績評価指標)の設定に向けて離職率調査を始めた。同協会DMO人材育成部会の佐藤勇人部会長は「調査を実施し、データを基に進める。人材の問題に向き合うには、行政、観光協会、組合、住民みんなで考え、取り組む必要がある」と報告した。
◆栃木県
栃木県は、観光地域の持続的な発展に向け、宿泊・観光施設の人材確保・育成を重視しているが、人手不足は深刻な状況。県観光物産協会とちぎDMOマーケティングアドバイザーの石﨑忠行氏は「県内には富裕層向けのホテルも数軒進出するが、既存施設との人材争奪戦が起きているようだ。人材不足ではインバウンドの対応も進まない。今、手を打つ必要がある」と指摘した。
人材の確保に向けては、旅館の女将、観光施設のスタッフ、旅館で働く外国人が登場して「観光施設で働く魅力」を伝えるプロモーション動画を作成し、ウェブサイト「とちぎ旅ネット」で公開中。県内の観光事業者の採用情報を集めて掲載するページも同サイトに開設した。
外国人留学生の就職フェア、栃木県へのUターン希望の大学生などが参加するインターンシップフェアに出展した。人材の定着に向けては、旅館の女将をはじめ県内の観光事業者を対象に働き方改革に関するセミナーを開催した。
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3地域が取り組みを報告したセミナーのコーディネーターを務めたJTB総合研究所・人財育成プロデューサーの大伴哲夫氏は総括で、旅館・ホテルの人材確保には、宿泊業の労働環境に対するイメージの再構築が課題と指摘。「宿泊施設で働く魅力やキャリアパスを具体的にアピールできないと、採用、定着はおぼつかない」と述べ、経営者の意識改革、働き方改革に期待した。
将来的な人材確保の在り方では、施設間の連携、地域一体の取り組みの必要性にも言及した。「個々の施設だけではなく、DMOや観光協会など地域の組織で雇用し、宿泊施設、観光施設、観光案内所などを含めた業務を担ってもらうことも考えるべき」と提言した。
3地域が取り組みを報告した「地域における観光実務人材の確保・育成のための全国セミナー」(1月20日、東京で)