山形県の訪日客誘致へ The Hidden Japan 代表 山科沙織氏に聞く


The Hidden Japan 代表 山科沙織氏

地元事業者や学校と連携 英語ガイド人材も育成

 ――2018年の設立以降、どのような事業展開をしてきたか。

 当初はインバウンド観光のプロモーション事業からスタートした。外国人視点で観光情報を発信するWebメディアを開設したところ、それをきっかけに山形県を知り、実際に訪れたアメリカ人観光客がいた。自分たちが発信したことで地域に人を呼ぶことができると実感し、山形県をはじめとした東北地方にもっと多くの人に来てもらいたいと思い、旅行事業も開始した。社名であるHidden Japanは「日本の隠れた魅力」を意味する。まだ知られていない日本の魅力的な場所や体験を世界へと発信し、ツアーの企画・販売から受け入れまで、総合的に日本の旅をサポートしている。近年は地域の事業者や教育機関と連携した地域活性化の取り組みも積極的に行っている。

 ――地域事業者との連携とは。

 大石田町でタクシー事業を展開する東雲観光グループと連携し、インバウンド向け観光コースの共同開発を行った。訪日観光客からの絶大な人気を誇る銀山温泉と、その周辺地域への誘客を図るべく、観光コース開発だけでなくタクシーでのガイドツアーなども実施。東雲観光グループが長年築いてきた地域事業者との信頼関係を生かしたアプローチができるよう、当社は訪日観光客が求める観光のあり方やノウハウの提供、ドライバーの英語ガイド養成を担当した。

 ――事業に至るまでの経緯は。

 銀山温泉は、最寄り駅である大石田駅からのアクセスが限定的であることが長年の課題だった。そこに、英語が堪能なドライバーがガイドを務めるタクシーを運行することで、駅での待ち合わせ時間をなくし、車でしかアクセスできない魅力的な観光スポットにも足を延ばすことができるようになった。

 また、銀山温泉はその人気度から宿泊できないケースも多いと聞く。そうなると、旅行先から外すしかないという機会損失にもつながりかねない。こうした問題を解決するため、宿泊ができなくても近隣の宿泊地から日帰りでアクセスし、温泉街の雰囲気だけでも味わってもらう、といった活用方法として使っていただくこともできる。エリア内の回遊性が高まるという点において、地域活性化に大きく貢献できたと思う。

 ――ツアーへの集客経路は。

 自社サイトやSNSを通じて予約される場合が多い。そのほかにも、欧米豪を中心とした海外のエージェント経由の予約もある。

 ――教育機関との連携とは。

 グローバル人材育成に向けた取り組みを地元の高校などと連携して行っている。具体的には、インバウンド向けコンテンツにおける地元高校生の実践的なボランティア活動を推進しており、今年2月には県立山形西高等学校と共同で「Sushi Workshop in Yamagata City(寿司(すし)体験)通訳ボランティア」を行った。

 きっかけは、英語教育に力を入れている同校で当社の外国人スタッフがインバウンドに関するスピーチをしたことだった。当社の取り組みが「生徒の異文化理解と英語力向上を促進してグローバル人材の養成を行う」という同校の教育方針に合致していたことに加え、実践的な体験の機会を持つことで、通訳ガイドが地元で人材不足になっている問題を生徒へ意識づけできるということから、企画が立ち上がった。

 協議の結果、実際に訪れた訪日観光客に対して寿司職人が握りを実演し、生徒が寿司の調理方法や職人からの指導内容を通訳しながら説明するという形でツアーを実施することになった。当日はアメリカから観光に訪れたお客さま2人に対して、同校の生徒3人と当社スタッフ2人が参加。ツアー参加者と生徒の間で相互理解を深められただけでなく、参加者は生徒のおもてなしにも感激した様子で、通訳ガイドボランティアによる円滑なツアー実施の可能性を見いだすことができたと思う。

 ――教育機関との連携は今後も拡大する計画はあるか。

 訪日観光客向けガイドの人材育成は引き続き継続していかなければならないという認識に変わりはなく、大学生向けインターンシップの実施なども視野に入れている。実際に地元の大学からもお声がけをいただくこともあるが、まずは高校生向けに実践の機会を増やし、事業として確立していければと考えている。インバウンド向けの仕事に就きたいという大学生は多いと思う。そうした「地元の観光業に携わりたい」という人を増やすためにも、インターンシップやボランティア活動などの受け入れで貢献していきたい。

The Hidden Japan 代表 山科沙織氏 

やましな・さおり 山形県三川町出身。2018年に酒田市で同社を設立後、訪日外国人をターゲットにしたツアーの企画・販売や観光プロモーション、メディア運営など、インバウンド関連のさまざまな事業を展開する。
【聞き手・水田寛人】

 
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