新ルート開発で人材創出 JTB取締役常務執行役員 グローバル統括本部長 訪日インバウンドビジネス担当 財務担当 武田淳氏に聞く


JTB取締役常務執行役員 グローバル統括本部長 訪日インバウンドビジネス担当 財務担当 武田淳氏

持続可能な観光に貢献

 ――23年度の取り組みは。

 「当社の取り組みとして大きく三つ挙げられる。一つ目は、新たなインバウンドルートの開発だ。訪日外国人向けツアーの『サンライズツアー』では、地方誘客、オーバーツーリズム対策の観点から、22年にレインボールート、23年にせとうちシーニックルート、九州オーセンティックルート、そして24年3月には北海道アドネイチャールート、東北ディスカバリールートの販売も開始し、五つのルート全てで販売態勢が整った。地域を面で捉え人流を創出し、地域経済の活性化と持続可能な観光に貢献していく」

 「具体的な動きとして、北陸経由で東京―関西を結ぶレインボールートでは、北陸新幹線の延伸で注目度が高まっており、関係自治体と官民一体で推進している。能登半島地震からの復興という意味でも中長期的に取り組んでいく。せとうちシーニックルートは、23年のG7(主要国首脳会議)をきっかけに広島が再注目されたことで、訪日需要が急速に回復している」

 「二つ目は、訪日クルーズ船のショアエクスカーション(寄港時観光)の拡大。クルーズの需要回復に伴い多くのクルーズ船が地方を含む日本各地に寄港している。JTBでは23年度に九州、四国、広島などの寄港地で受け入れの取り扱いを行った。自治体、DMO、事業者と連携し、新たなショアエクスカーションを開発することで、地域特性を生かした付加価値の高い体験を乗船客に提供できた」

 「三つ目は、他社とのアライアンスだ。日本の食文化の発信、ガストロノミーツーリズムの推進に向けて、訪日外国人向けの食体験の予約プラットフォーム『byFood.com』を運営するテーブルクロス社に出資した。地域ならではの食文化に着目した商品開発を行い、食に関する商品の販売強化につなげる。また、トリップ・ドットコムグループ(本拠地=中国・上海市)との合弁会社『JTB Inbound Trip』を設立した。中国だけでなく、アジア全体の訪日インバウンドの取り込みを目指すもので、トリップ・ドットコムグループが持つアジアの販売網とJTBの仕入力を生かし、旅行者の選択肢増加、宿泊施設や観光施設の販売網拡大に取り組んでいる」

 ――23年度の業績は。

 「訪日インバウンド関連事業全体でコロナ以前の実績に少しでも近づけることを目標に取り組んだ結果、23年度の目標を大きく上回る実績を残すことができた。23年1月にJTBグループ内の各事業部門を横断する新たな組織『訪日インバウンド共創部』を立ち上げた。JTBグローバルマーケティング&トラベル(GMT)だけでなく、『全ての事業活動に訪日インバウンド目線を』として、グループ内の関連部署が一体となって、さまざまな施策を展開できるようになったことが大きい」

 ――24年度の訪日インバウンド市場の見通しは。

 「JTBの旅行動向見通しでは、24年の訪日外国人数は3310万人に達し、過去最高になると推計されている。日本政策投資銀行と公益財団法人日本交通公社が共同で実施したアジア、欧米豪を対象にした意向調査でも、『次に旅行したい国・地域』の1位は日本だ。宿泊や飲食、アクティビティーなど日本ならではの体験に関心が高まっており、地方誘客の好機と捉えている。トレンドとしては、訪日リピーターと個人旅行者の増加、動画サイトの影響力拡大、消費単価の上昇、滞在期間の増加を挙げておきたい」

 ――24年度の事業展開は。

 「五つのインバウンドルートをしっかり発信し、オーバーツーリズムへの対策も並行しながら訪日インバウンド事業の持続可能性を追求していく。JTBは47DMCとして、自治体などとの課題共有に努めており、訪日インバウンドに関する課題についてもグループ全体で解決に貢献していきたい。JTBはインバウンドの4本柱として、ガストロノミーツーリズム、アドベンチャーツーリズム、メディカルツーリズム、サステナブルツーリズムを掲げている。地域の課題にこの4本柱をうまくマッチさせることで、地域の観光素材を可視化し、世界にアピールする。政府の観光立国推進基本計画におけるキーワード『持続可能な観光』『消費額拡大』『地方誘客促進』を踏まえて、地域に最適なソリューションを提供することで、持続可能な観光を重視しながら、訪日インバウンドにおける地方誘客、消費額拡大を実現していきたい」

 ――旅ホ連会員との連携については。

 「HR客室をGMTのシステムを通じ販売できるようになったことにより、提供客室の流通を拡大できた。GMTが強みとしている欧米マーケットだけでなく、アジア地域へのマーケット拡大を見据え、アジアの新興国市場に強いトリップ・ドットコムグループと連携した。これにより、ご提供いただいている客室をほぼ全世界の主要ソースマーケットに対しお届けできるようになった」

 「今、地域はさまざまな課題を抱えているが、その解決に向けたキーワードの一つが訪日インバウンドなのではないか。誘客に向けて地域づくりをどうするか、いかに地域を世界に発信するか。その主力プレイヤーこそが旅館・ホテルの皆さまだ。その際、事業者単体ではなく、関係者を巻き込んで地域全体で取り組むことが重要になる。JTBは、交流の拡大やエリアソリューションなど、地域に貢献できる取り組みを今後も強化していく。旅ホ連会員の皆さまに引き続きご協力いただきたい」

JTB取締役常務執行役員 グローバル統括本部長 訪日インバウンドビジネス担当 財務担当 武田淳氏

 
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