グループ基盤強みに反転攻勢へ
コロナ禍が始まりもうじき2年を迎える。現在は国内の感染者数が減少傾向にあり、22年初からは国内旅行を中心とした観光・旅行需要の回復が見込まれる。国内で航空、鉄道とインフラを支える会社では旅行部門でどのような反転攻勢の一手を打つのか。キャリア系旅行会社2社のトップに集まっていただき、語ってもらった。(東京の帝国ホテルで、聞き手は本社・長木利通)
陸・空の共同宣伝で流動作れる 森崎
双方向で商品提供に可能性 江利川
――2021年を振り返ってほしい。
江利川 20年も厳しかったが21年も本当に厳しかった。今後の見通しとしては、ワクチン接種の拡大でコロナが沈静化する中、国内マーケットではGo Toトラベルなども契機として業績につなげ、国内を軸に安定した基盤を作っていく。海外旅行も段階的に旅行再開への歩みを進めていく予定だったが、渡航制限があるなど先を見通せない状況にある。10月からは緊急事態宣言が解除され、国内旅行が段階的に回復しているが、変異株の話もあり再度計画を立て直さなければならない。
ジャルパック社長 江利川宗光氏
――緩和後には数字はどれくらい戻ったか。
江利川 JALの国内航空もジャルパック国内商品も、19年同月比対比でおおむね、10月が5割、11月が6割、12月が7割を超えてきた。今後は70%の上を狙っていく。
森崎 同じように厳しい年だった。東京オリンピック・パラリンピックがあったほか、東日本大震災から10年の節目の年として東北の復興した姿を国内外に見せる絶好の機会として4~9月には東北デスティネーションキャンペーン(DC)を開催した。だが、ほとんどの期間が緊急事態宣言下という厳しい状況となり、上期の営業収益は前年を下回った。部門別では、国内旅行需要がワクチンの接種率と比例して回復してきた。インバウンドは惨憺(さんたん)たる状況だったが、在留外国人にも「JR EAST PASS」をご利用いただけるようにするなど、できることは全て行った。地域連携事業にも本格的に力を入れ始め、国や県などからの補助金を活用しながら、地域と協働し観光開発、地域活性化につながる取り組みも実施した。これは今後の新たな礎ともなる事業だ。コストダウンは20年から販管費などを抑え、営業費用を圧縮している。緊急事態宣言解除後は、11月になると9月の倍ぐらいまで予約が増えてきた。
びゅうトラベルサービス社長 森崎鉄郎氏
――観光・旅行業界の市況をどう捉えているか。
江利川 コロナ禍で顕著だったのは、店舗縮小やIT化、ウェブ化が一気に進んだこと。通常は10年かかるものが1、2年で進んだ。この分野は、JALグループでは比較的早くからかじを切っていたが、今後は同業他社、サプライヤー側もIT、DXを進めており、われわれもさらにユーザビリティを向上するなど、先を目指す。だが、全てIT化になれば良いかというと違う。旅行の本質はリアルなところにあり、ITとヒューマンのベストミックスを実現していきたい。旅慣れていない人への提案につながるなど、OTAとの差別化を図ることにもつながる。
森崎 コロナ禍で出控えが多く、店舗は営業時間短縮や休業を繰り返してきたが、その中で業界ではオンライン化に拍車がかかった。店舗に旅行商品を求めて来店する人は今後さらに少なくなるはずだ。コロナ前から当社は「店舗機能の変革」として、店舗を従来型の旅行を売る「びゅうプラザ」から、情報発信やお客さまと地域のコミュニケーションを行う顧客接点型拠点「駅たびコンシェルジュ」に転換する構想を立てていた。オンライン予約のサポートや、店舗と観光地のオンライン中継を開催するなど、お客さまをオンラインへいざなう架け橋、旅行意欲を喚起する場となる。また、最近の旅行動向としては、温泉旅館やリゾートホテルでのロングステイへの需要も高まっているほか、オンラインを使ったイベントにも取り組んでいる。ただ、オンラインツアーは、顧客つなぎ止めの一つの手段とはなるが、ビジネスとしては成り立っていないのが現状だ。一方で、これからはオンライン自体でお客さまの旅行への意識、動向などをデータでつかめる手段ともなっており、オンラインの活用はコロナを機に一気に進んだといえる。
――コロナ禍の中、グループの中でどういう役割を求められているのか。
森崎 JR東日本グループにおいて、当社が人を動かすという役割は変わっていない。現在、首都圏から地方への移動需要は戻りつつあるが、地方から首都圏への移動は慎重な人が多く、下りより上りは30ポイント程度低い。そうした上下格差も今後は埋めていく必要がある。当社は旅行会社から観光流動創造会社を目指している。グループの中でも移動を創出する「一番槍(やり)」として変化する価値観に合わせた商品を提供するなど、観光流動を創る役割を担う。また、各地域には多くのJR東日本グループの会社がある。当社にはその点と点をつなぎ、媒介していく役割も期待されており、なお一層グループ間連携の橋渡しをし、成果へとつなげていく。最近ではグループ間連携でワーケーションやオンラインツアーなども生まれている。
江利川 成り立ちがホールセラーとして旅行商品を企画造成し、各旅行会社に売っていただく形が発端だったが、意識面を含めて大きく変わる時期にある。JALグループの旅行会社という部分を再定義し、そこに集中と選択を行っていく。ポイントは三つあり、一つはJALマイレージバンクという大きな会員組織の皆さまに旅行体験を直販でしっかり提供していくことだ。二つ目は航空券に高い付加価値を設け、会員基盤の皆さまに利用いただくシステム、商品のラインアップを明確にして差別化すること。三つ目はJALの経済圏を通じてお客さまのライフステージ全般をお世話すること。旅行商品単体の販売よりは、グループ内連携をしながら顧客価値を最大化していく。それが、長くJALグループを愛していただくことにつながる。
――キャリア系旅行会社ならではの強みは。
江利川 これも三つある。一つ目は、JALマイレージバンクの会員には高所得者層や飛行機によく乗る人を集めた組織があるが、ジャルパックにもロイヤルクラブという上顧客の会員組織がある。いずれもマーケットとしても魅力ある顧客基盤がある。二つ目は、JR東日本グループとも共通するが、国内外に支店、空港所など拠点があるほか、JAL本社内に地域事業本部といった部門があり、横連携を深めることでビジネスを結び付け、収益化につなげられる。将来的にはインバウンドにも生かせる。三つ目は抽象的に聞こえるかもしれないが、JALの質の高い商品、サービスを一貫性を持ち提供できること。グループ全体の行動規範「JALフィロソフィ」は全社員に浸透しており、共通言語化されている。グループ全体での共通認識、横連携の成果もあり、日本版顧客満足度指数(JCSI)では、旅行部門において2年連続で総合1位をいただくことにつながっている。客室、運航、整備など全てが一気通貫し、素早く動けることがわれわれの強みとなっている。
森崎 広域の鉄道ネットワークを生かした地域とのつながり、各地で働く大勢のグループ社員は大きな強みだ。今後は、グループとして培ってきた観光開発や、流動創造施策の知見により、地域連携事業の領域をグループ間連携でさらに進めていく。また、定期運行からすでに退いたカシオペアを活用するなど列車をテーマとした商品の展開、東京モノレールの車両基地見学、JRE MALLを活用した地域産品の販売など、できることが日々広がっている。最近では、スタートアップ会社が投資し、直接資本関係がない会社とも連携するなどグループの枠を超えた取り組みも進んでいる。先ほどJALグループの一気通貫の話があったが、当社も水平分業子会社であるので、JR東日本の施策に合わせてスピーディーに展開できることは強みである。
――コロナ禍の中、反転攻勢の一手はあるか。
森崎 抑えられた移動欲求の爆発で、これまでは漠然とした目的が、「久しぶりに冬の北陸でカニを食す」「わざわざ地方の居酒屋の店主に会いに行く」「リアルで東北の一本桜を見に行く」など、より明確になる。当社はそれを具現化し、ニーズに応える商品を準備する。
江利川 海外は厳しいが、国内でしっかり旅の喜びを味わっていただける事業基盤を固め、国内でも海外に近い経験ができる商品を提供していく。3月末でホールセラーとしてのパンフレットはなくすが、その分企画型の商品を単発で出すこと、システムのバージョンアップによる利便性の向上にも力を入れ、お客さまの多様化するニーズにまずは国内で取り組んでいきたい。海外はまだ先行き不透明だが、コロナ禍での海外事業の戦略的方向性を改めて作り直す。また、海外旅行の復活には1社では力が不足であり、JATA会員企業など業界で手を組めるところは積極的に組んでいきたい。効率的、生産性があり、ニュートラルな形であれば、ウィンウィンなビジネスとなるはずだ。
――コロナ禍でパンフレットの需要はどれだけ減ったのか。
江利川 21年上期は緊急事態宣言発出等の影響があり、国内旅行のパンフレットを作り、下期の商品を出しても全く動かなかった。後追いでダイナミックパッケージのように、素早く動けるものでもなく、機動性、コストを考えても差が大きくなった。よって、今後は季節ごとに旅行会社の店頭でパンフレットを並べて売る旅行会社での流通販売は国内旅行に関してはなくす。会員向けの3カ月に1回程度出している旅行商品用のパンフレットや、海外旅行に関して当面は継続していく予定。
森崎 5年前には10%だったオンライン販売シェアだが、コロナ禍で店舗収入が減少したこともあるが、皮肉にも21年12月現在で80%となった。コロナ禍で店舗に人が戻らず、パンフレット販売の店舗とオンラインでシェアが大きく逆転した。「大人の休日倶楽部」会員向けの封入用パンフレットは来年度以降も継続するが、店頭用のパンフレットは今年度限りで全廃する。今後、店頭には観光情報発信用のパンフレットを掲出することになる。
――航空、鉄道を支える両者だが、2社での連携は。
江利川 ぜひウィンウィンなコラボはしていきたい。今も「トランスイート四季島」を企画商品として利用させていただいているが、互いに素晴らしい会員組織を持つのでOEM商品の双方向提供など、できることは多々ある。将来的にインバウンド復活時には旅ナカの主要パートナーはJRであり、そういう面も含めて可能性を探っていきたい。
森崎 移動手段として、一部の路線ではライバルだが、今は人の移動を取り戻し、国内外の人流を作るために手を組むことには強く同意する。インバウンドが戻れば、今でもJALで国外から日本にダイナミックパッケージを使って来るお客さまにJR EAST PASSを組み込んでいただいているが、より連携を深めることで羽田や成田を起点に都内や地方など各地にある駅たびコンシェルジュで情報獲得や旅のサポートを得ながら、幅広く東日本エリアを訪れてもらうことも可能になる。コロナ禍で中止となったが、高輪ゲートウェイ駅でVRなどを使い陸と空で青森を紹介する企画があった。一緒にプロモーションできる地域は数多くあるので、特定の地域を観光流動によって盛り上げる取り組みはすぐにできる。
――2022年における事業展開、成長戦略は。
森崎 鉄道150周年、東北新幹線は40周年など節目の年となり、グループでは1年をかけて「新幹線YEAR2022」キャンペーンを実施する。また、当社も創業30周年となり、新たに社名を「JR東日本びゅうツーリズム&セールス」とし、観光流動創造会社へと生まれ変わる。販売機能の変革と店舗機能の変革が3月で完成し、4月からは新たなスタートを切る。社名にJR東日本の名前が出ることでグループを強調しながら、東日本エリア、エリアに連なる北陸、北海道などの観光流動創造の担い手として、移動価値をしっかり提供していきたい。これからは単に旅行を提供するだけでなく、今まで以上に「観光振興」に取り組んでいく。グループ内では「JREポイント」がグループポイントとして統合され、一つのポイントとして提供の仕組みを構築した。当社も参画しており、JREポイント経済圏を構築する中で「えきねっと」や大人の休日倶楽部の会員、JREポイントの会員にも商品をしっかり提供していく。このほか、独自に構えた地域の情報発信サイト「*and trip.」でのさらなる情報提供や、施策に応じて旅館・ホテル、鉄道の価格を「JR東日本びゅうダイナミックレールパック」により可変とするなど、新しい仕組みを市場に浸透させていきたい。
江利川 改めてジャルパックのJALグループの中でのポジションを明確にしていく。また、ウェブを中心に会員組織のお客さまの利用を上げるなど、戦略的な方向性も示していきたい。グループで生活提案などを行い商社の機能を持つJALUXが再度双日の傘下からJALの連結子会社となる。空港でのリテール、不動産、旅行保険などさまざまなBtoCの分野も持っているので親和性が高い。JALUXとの連携も含め、グループとの連携を、戦略の大きな位置付けとして考えていく。
――2022年のスローガンを。
江利川 生まれ変わるという意味を込めた「Reborn(リボーン)」だ。これまでのようにホールセラーの名で自分たちを定義する時代ではない。まさに直販主体の会社とし、またJALグループでのポジショニングを再度明確化、強化していくという意味でも、ジャルパックの歴史の中でリボーンの1年になる。できれば海外旅行も再度新たな形で生まれ変わらせ、小さな一歩を歩み出したいという願いも込めている。
森崎 来年度の事業計画をちょうど今、議論しているところ。2大変革が3月に終わり、4月からより具体的な取り組みに移る。これがスタートとなるので「変革からさらなる創造へ」を挙げたい。当社は観光流動創造会社であり、これで終わりではなく、さらに新しいものを創るメッセージを込めたい。
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