日本旅館協会の会長を務める湯元舘(滋賀県大津市)会長の針谷了氏が17日、東京・有明で開かれた宿泊業などに関連する見本市「HCJ2016」の中で「旅館業の生産性向上」をテーマに講演した。経営する旅館での取り組み事例を紹介。業務の無駄を排除し、接客時間の増加などで付加価値の向上を図り、宿泊単価のアップにつなげる好循環を確立すべきだと強調した。政府の支援のもと、日本旅館協会が始めたモデル事業などを通じて「生産性を向上させ、旅館業を成長産業にしたい」と意欲を示した。
針谷氏は、旅館業の生産性向上の取り組みについて、業務の改善(無駄の排除)→時間・労力に余裕(接客など必要業務にかける時間増)→付加価値が向上(宿泊単価アップ)→収益・給与待遇の改善→人材確保・設備投資→さらなる業務の改善—のサイクルを確立する必要性を指摘した。
湯元舘をはじめとするグループの宿泊施設で取り組んできた生産性向上の事例を紹介。無駄の排除の取り組みを(1)IT化(2)機械化(3)作業改善(4)3定(定位置、定品、定量)(5)改善活動—に分けて紹介した。
IT化では、PMS(予約、フロント会計、経理、顧客管理などを担う基幹システム)を活用。調理場の情報伝達では、ホワイトボートに手書きで記入していたが、PMSと連動したデジタル表示に変更し、記入などにかかっていた労力、時間を削減。食器準備表の作成も同様の手法で改善した。
IT化のその他の取り組みは、ダイヤルディスプレーを活用した顧客対応、インカム(トランシーバー)やワイヤレスフォンの導入、客室清掃状況のルームインジケーター、売店の免税処理システムの整備など。
機械化では、ローラーコンベアとバーコードタグを使って料理の搬送業務を改善。作業改善では、配膳の労力軽減に向けて「お座敷台車」を導入したり、スタッフの草履の脱ぎ履きが少なくなる動線を採用したりした。調理場には、天ぷら油の給油システムも導入した。整理、整とんに関する業務改善を意味する3定では、配膳室、調理場などで備品の管理を徹底した。
改善活動では、スタッフに「改善メモ」の提出を促し、「改善ボックス」で毎月回収する。改善メモは、改善の必要性を提案するメモと、実際に実施した改善事項を報告するメモの2種類。幹部社員が回覧して業務改善に生かすほか、優れた取り組みには報奨金を出す。
針谷氏は「旅館の多くは、製造業が取り組んでいるような生産性向上への改善活動を実施していないか、実施していてもうまく軌道に乗っていない。しかし、その分、改善の余地が大きく、伸びしろは大きいと言える。一つ一つ取り組んでいけば、旅館の生産性は飛躍的に向上するはずだ」と語った。
また、日本旅館協会は、内閣府、観光庁の支援のもと、昨年10月、旅館ホテル生産性向上協議会を発足させた。首相官邸で開かれたサービス業の生産性向上に関する会合で、安倍晋三首相から対策を要請されたことを受けて設置した。
協議会では、規模(客室数)・業態別に全国から8軒のモデル旅館・ホテルを選定。日本生産性本部などの協力で経営コンサルティングを実施し、課題を抽出、対応策を策定する。モデル事業の成果を協会会員に報告し、取り組みを普及していく。
講演する針谷会長