日本コンベンション協会(武内紀子代表理事)が10日に観光庁に提出したMICEの誘致、開催などに関する施策の充実を求めた要望書「MICE国際競争力強化に関する提言」の一部を抜粋して紹介する。
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MICE推進における課題認識を踏まえ、MICE立国日本の実現のため、JCMAは以下の3点の取り組みについて提言する。
1 MICE業界の認知度向上とともに、産業としての強化を図る
われわれは、MICE開催によりもたらされる効果が社会的に認識され、MICEが戦略実現ツールとして積極的に活用されることにより、MICE業界そのものの認知度が向上することを目指している。
そのためには、MICEの誘致および開催における経済界とのつながりが、直接的に関係する分野の企業に限定される現状から、より経済界全般に広がり、MICEについての理解が深まるための戦略的なアプローチが必須と考える。
MICE開催により、SDGs等社会的な意義が具現化する効果を生かし、国および地域、民間企業が一体となったMICEへの支援体制の醸成へとつなげられないか。
一方、MICE業界の特徴として、多様な業種の企業が関わり、すそ野が広いことが挙げられる。さらにここに、独自の技術を持つICT企業等が新たに参入することで、業界の活性化、ひいては競合国との差別化へとつながることが期待される。
社会一般、そして経済界において広くMICEへの理解が促進され、産業としての強化が図られることが求められている。
(1)開催効果の高いMICEへの支援等誘致・開催への取り組みと、そのための基準の設定
現在、わが国の、世界とりわけアジア地域における相対的地位の低下、またMICE新興国による国を挙げての支援の強化等により、MICE誘致において必ずしも優位な立場にはない。特に大型MICE開催に関しては、競合諸国との対抗上劣位にあることは否定できない。
投下できる予算が限られる中、外国人参加者数、開催予算、開催分野、開催地に与える影響等を勘案し、開催効果が高いと判断されるMICEへの集中的な支援が求められている。
また、この判断のために、支援対象とするMICEの基準についても検討すべきと考える。
(2)MICEの誘致・開催による高い経済効果についての訴求
MICE開催により、開催地はもとよりわが国全体に高い経済波及効果を生み出すことは、昨年度観光庁により実施された調査によっても明らかである。(MICEに関する調査事業平成29年度実施「MICEの経済波及効果算出等事業」)
MICE業界の認知度向上を図り、MICEへの関心を喚起するために、これら定量的な数値を社会一般、特に経済界に対し、強力に発信すべきである。
そして、そのためにも毎年度継続して算出することが望ましいと考える。
(3)大学でのMICE講座開設への支援
MICEに関する理解度の低さは、学生においても同様である。近年、大学において、観光に関する講座は増加しているが、MICEについての体系化された教育は不十分な状態にある。
MICE業界を目指す学生の母数を増やすことが重要であり、そのためには、大学等におけるMICEに関する魅力ある教育プログラムの提供が不可欠である。
観光関連の学科等を持つ大学に、MICEに関する講座の開設を積極的に働きかける必要がある。
2 MICEを活用したわが国の国際的ステータスの向上
わが国がMICE開催地に選定されるということは、ひとえにわが国が国際的に注目されているため、と言える。その分野においての存在感が際立つ、との理由も考えられる。
言わば、国際競争のひとつの形としてMICE誘致が行われているのが実情であり、特に、開催効果が高いとされるMICEの誘致は、国としての確固とした戦略と連動すべきである。
(1)国際本部の要職ポストの確保、および国際本部・アジア本部等の誘致
わが国が国際的ステータスを維持し、より一層向上させるためには、あらゆる分野、その中でも特に戦略として強化を考える分野の学協会が、国際的な存在感を発揮することは大変重要である。
国際本部の要職に日本人を送り込む、さらには、国際本部そのものを誘致する、もしくはアジア本部を開設または誘致する等により、その分野におけるわが国のプレゼンスを高めるための戦略が求められる。
逆に、この戦略との連動なしにはMICE誘致は促進されない、とも言える。
(2)学術団体の国際化と、国内MICEのグローバル対応への支援
開催件数、参加者数ともMICE業界におけるビジネスの中での高いシェアを占め、一定の市場規模を有するわが国の国内MICEは、近年国際化への注力が著しい。その主催者である学協会の活動の国際化とともに、特にアジア地域でいかにイニシアチブを取るかは、団体の喫緊の課題となっている。
国として国内MICEの国際化、それに伴う多くの外国人参加者を迎えるための施策に取り組む意義は大きい。
(3)ICCA総会の誘致実現
MICE業界自体の国際MICEは、さほど多くはない。規模も、開催効果の高いとされる大型MICEに比べ、決して大きくはないのが実情である。
しかしながら、MICEのプロが参加するMICEで高い評価を得ることは、あらゆるMICEの誘致の決め手となり得ることは、もっと重要視されるべきである。
本年2月のIAPCO総会に続き、C(コンベンション)分野のもうひとつの国際MICEであるICCA総会の誘致を実現し、成功させることにより、MICE開催地としての日本を最大限に訴求する機会としたい。
3 MICE開催のインセンティブが働く施策の実施
MICE開催のためには、主催者やステークホルダーの存在が欠かせない。彼らがMICE開催への強い意志を持たない限り、MICE誘致は実現しないのが実情である。
ついては、MICEの誘致・開催や、新たな立ち上げには相当なエネルギーが必要であることを理解し、これらに対する主催者へのインセンティブが働く施策の実施が望まれる。
(1)コンベンションの誘致主体となる大学等へのMICEを通じた研究および国際化支援
MICEのうち特にC(コンベンション)の学術会議は、大学等の研究者が自ら主催者となることがほとんどである。ただでさえ多忙な彼らが、MICEの誘致主体として積極的に関わるためのインセンティブが考えられないだろうか。
MICEの誘致や開催が、所属する大学等の研究機関における評価、科研費の申請時の評価等でプラス材料とみなされれば、アカデミアにおいてMICEに関する捉え方が確実に変わることが期待できる。
(2)スタートアップ案件による日本発MICE立ち上げへの支援
既存MICEの誘致に比べ、新たにMICEを立ち上げることは、より難易度が高いと言える。
組織体制、業務の繁忙、広報、信用度等の懸案事項の上、赤字のリスクを抱えて開催する現状では、なかなかスタートアップ案件は生まれない。
実績を評価して行う支援が一般的ではあるが、最も厳しい立ち上げの時こそ育成のための支援が望まれる。
(3)競合国の政策・制度の調査(アジア、欧州および米国)、およびIR事業とMICE発展の可能性調査
本提言において、いくつか競合諸国の事例を示しているものの、われわれはMICEにおける実際の支援内容の詳細を理解できてはいない。わが国全体においても、競合国のMICE政策・制度について共有されているとは言えない。
果たして実態としてどうなのかを調査し把握したうえで、より効果的な誘致戦略を練るべきではないかと考える。
IR事業とMICEの親和性についても、諸外国の導入事例の調査により定量的に把握したい。