情報、心のバリア解消を
障害者や高齢者など誰もが快適に楽しめる観光を目指すアクセシブル・ツーリズムの推進に向けた東京都主催のシンポジウムが5日、オンラインで開催された。パラリンピックなどで活躍する選手がパラスポーツを通じた共生社会の実現を呼び掛けたほか、旅行業者などがパネルディスカッションに登壇し、障害者らが旅行をあきらめることがないよう、ハード面の対応だけでなく、情報や心のバリアを解消する大切さなどを強調した。
走り幅跳びでパラリンピック3大会に出場し、現在はパラトライアスロンの選手として活躍する谷真海氏(サントリーホールディングス)が基調講演。観戦チケットの完売など最も成功したパラリンピックといわれるロンドン大会では、「大勢の観客に驚き、力をもらった」と振り返り、英国のパラスポーツ強化への取り組みなどを紹介した。
谷氏はロンドン大会後、障害者の雇用環境などが変化したことにも触れ、「パラリンピックは社会変革に大きな力となる。よりよい社会に向けてパラスポーツを広めたい。障害の有無、人種、国籍などに関係なく、混じり合う社会の実現を」と語った。
パネルディスカッションでは、日本のアクセシブル・ツーリズムの現状について、冬季パラリンピックのアルペンスキー金メダリストで電通パブリックリレーションズの大日方邦子氏が「ハードは整ってきているが、例えば、ヨーロッパでは、段差があって車いすユーザーが困るような場面では、周囲の人がすぐに声を掛けてくる。日本はハード、ソフト全体を考えると、まだ出掛けにくい状況がある」と指摘した。
1999年に障害者、高齢者向けの旅行会社、ベルテンポ・トラベル・アンドコンサルタンツを創業した高萩徳宗氏は、観光関係者や受け入れ地域は「旅する側の諦めなど、行きたい気持ちの手前にあるバリアを解消する必要がある」として、情報のバリア、物理的なバリア、心理的なバリアを課題に挙げた。
高萩氏は、宿泊施設の対応について体験談を披露しながら、「ホテルのブッフェ会場で杖を使っている方にスタッフが駆け寄り、セットメニューも提供できることを伝えている場面に出会った。とてもよい対応だ。事前にホームページなどで情報を提供していればなおよい。コロナの感染症対策の情報を発信するのと同様に、アクセシブル・ツーリズムの情報についても情報発信に努めてほしい」と期待した。
旅行業の役割については、大手旅行会社での経験など、ユニバーサルツーリズムに長年にわたって携わるプランニングネットワークの渕山知弘氏が、「福祉のプロではないが、旅行のプロとして旅行を手配できるか。障害者の方などにはさまざまなニーズがあるが、それに応えることがリアルエージェントが本来やってきたこと」と述べた。
観光庁のユニバーサルツーリズム促進施策を検討する委員も務めてきた渕山氏は、近年の国の施策で、地域の相談窓口であるバリアフリーツアーセンターの設置、機能強化など着地での環境整備が進んでいると説明し、「これからは地域のバリアフリーツアーセンターと連携することで旅行業にできることも増えてくる」と指摘した。
パネルディスカッション