福島第1原発事故による観光業の風評被害の補償問題で、東京電力はこのほど、福島以外の東北5県の被害も新たに補償の対象とする方針を決めた。東電と山形県旅館ホテル生活衛生同業組合との協議で、東電が明らかにした。ただ、補償の範囲が子どもを含む旅行などに限定されており、旅館・ホテル側は現状では不十分として範囲をさらに拡大するよう求める方針だ。
風評被害の補償の範囲は、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会が昨年8月、「中間指針」(東京電力福島第1、第2原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針)として発表。福島、茨城、栃木、群馬の4県の被害について、事故と相当因果関係があると認定し、東電側に速やかに補償をするよう求めている。また4県以外でも、事故と相当因果関係があると立証されれば補償の対象になり得るとしている。
東電は指針に基づき被害者への補償を進めている。ただ、4県以外の被害への補償はほとんど行われていないとして、全旅連(全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会)など旅館・ホテル業界は、東日本のほかの11都県も補償の範囲に盛り込むよう、観光議連などに陳情してきた。
旅館・ホテル業界の運動が功を奏し、1月は千葉県の太平洋沿岸16市町村、2月は山形県米沢市も補償の対象となったが、ほかの東北各地は範囲から外されたままだった。
協議は6月25日、非公開で行われた。
出席者によると、今回、東電が打ち出したのは、すでに補償の対象としている福島県以外の東北5県(青森、岩手、秋田、宮城、山形)の被害の補償。
ただ、すべての被害が対象とはならず、事故があった昨年3月11日時点で予約があった旅行のうち、政府が計画的避難区域を定めた昨年4月22日までにキャンセルされたものに限定している。さらに東北以外から訪れた客で、放射能への感受性が高い18歳以下の子どもを含む旅行に限るとしている。東北管内での移動や、大人のみの旅行は対象とならない。キャンセルによる遺失利益のうち、原発事故以外の要因も勘案して50%を補償するとした。
東北6県の旅館ホテル組合で組織する全旅連東北ブロック協議会は今月4日、同問題の検討会を開き、今回の東電の提案について対応策を協議した。会は13日にも再度開き、旅館・ホテル側の意見を集約。近く、東電に対し、補償範囲の拡大などを求める予定だ。
全旅連会長で山形県旅館ホテル生活衛生同業組合理事長の佐藤信幸氏は「5県の風評被害を認めたことは一歩前進。ただ、4月22日までのキャンセルや18歳以下の旅行など、被害を限定していることには納得できない。東北全体がまとまり、しっかりとした要望を打ち出していきたい」と話している。