公益財団法人九州経済調査協会は7日、観光人流モニタリングサービス「おでかけウォッチャー」にて掲載する「デジタル観光統計(国内版)」を用いた、令和6年能登半島地震による日本人の観光人流変化の分析結果を公表した。それによると、石川県の日本人観光来訪者数は、2024年1月休日は前年比▲22%、2月休日は▲8%と減少した。
分析に用いた「デジタル観光統計(国内版)」は、スマートフォンのGPS位置情報に基づく観光人流データです。ブログウォッチャーは、提携する140以上のアプリから個別に利用許諾並びに第三者提供許諾が取れている全国の月間3,000万人の行動ログデータ(5~15分間隔)を保有しています。これを各都道府県数百から数千箇所の観光地点と照らし合わせ、日本人による市区町村・都道府県毎の日次観光来訪者数を算出しています。
1.北陸3県の観光来訪者数: 観光主目的の比率が高い休日に大きく減少
北陸各県の2024年1月における観光来訪者数は富山県で34.3万人、石川県で49.4万人、福井県で39.9万人となりました。前年比は富山県▲2.8%、石川県▲0.1%、福井県+3.9%で、富山県・石川県では全国の+1.7%を下回っています。
地震などの災害発生後、被災地では観光を主目的とする訪問は減少することが大半である。一方で、救護活動、報道、被災者支援、復旧工事などを主目的とする新しい訪問も発生します。位置情報データからは訪問主目的の把握は困難ですが、観光主目的の訪問は休日に、災害関連、特に業務・ビジネスに関する目的の訪問は平日に比較的多いと考えられます。特に能登地方では地震発生後、平日の観光来訪者数が増加し、土日にほぼ並んでいます。
そこで、観光来訪者数を平日と休日で比較すると、平日は富山県、石川県ともに全国を上回る前年比プラス幅を示す(+9.6%、+35.6%)のに対し、休日は富山県で前年比▲10.4%、石川県は同▲21.6%と大幅なマイナスを示しています。なお2月の休日は、富山県は前年比+7.3%とプラスに転じましたが、石川県は同▲8.2%とマイナスが続いています。
※前月比・前年比は日数差を補正済み、以下同様
2.市区町村別観光来訪者数:1月は北陸・周辺各地で減少も、2月は能登地域を除き回復基調
減少幅が大きかった休日の観光来訪者数について、市区町村別に前年と比較しました。
金沢市の2024年1月休日における観光来訪者数は前年比▲32.1%と大きく減少しましたが、2月休日は同▲1.2%と回復に向かいつつあります。
地震による被害の大きかった能登地域でも、和倉温泉などの観光地を有する七尾市では、1月2月ともに前年からの減少率が高くなりました。一方で珠洲市では、災害関連の訪問が多いこと、またアクセス困難により災害関係者の土日にまたがっての滞在比率が高いことから、休日に限定しても前年比プラスとなりました。なお輪島市は、「輪島あえの風冬まつり」の非開催により、2月の前年比マイナスが際立ったと推測されます。
このほか北陸では、富山市、高岡市、小松市、加賀市、白山市、坂井市で2カ月連続の前年比マイナスとなりました。また新潟県糸魚川市、上越市、岐阜県高山市、飛騨市、白川町など、北陸との周遊ルート上にある隣県市町村でも、観光客の減少がみられました。
3.発地別観光来訪者数:金沢市では南関東・近畿からの観光来訪者のマイナス続く
観光来訪者数の減少が大きい金沢市について、1月と2月の休日における観光来訪者数を発地別に比較すしました。
昨年12月時点で最も多い発地であった南関東は、地震発生後に大きく減少し、1月は前年比▲50.4%、2月も▲7.3%と全体(全国)よりもマイナス幅が大きくなりました。一方で、甲信越、北陸、東海、近畿などは、2月には前年比プラスに転じています。北陸に関しては、富山県からの来訪者増加が目立っています。
同様に、金沢市以外の北陸主要都市の発地別来訪動向にみると、高岡市、七尾市、加賀市では、南関東、甲信越、北陸、東海、近畿などの主要発地がいずれも、地震後は前年比マイナスとなっています。他方で、福井市、坂井市は、近畿は前年比マイナスですが、南関東や北陸は前年比プラスとなっています。新幹線開業直前のメディア露出もあり、南関東からの観光客の目的地が富山県・石川県から福井県に代替されている可能性も考えられます。
4.日別観光来訪者数:金沢市は2月下旬は前年比プラスに 七尾市は低迷続く
観光来訪者の減少人数が多かった金沢市と七尾市について、日別の推移をみると、金沢市では地震発生直後の週末(1月6~8日)には前年の40%にも満たない観光来訪者数であったが、1月20日には前年並みに回復、その後は横ばいが続いたものの、2月11日には再び増加し、翌週の2月17日には前年を大きく上回る人数となりました。同週では、富山県や大阪府からの観光来訪者の増加が寄与しています。
一方、七尾市では、地震により多くの宿泊・観光施設が被災し、現在も営業休止が続いていることから、地震発生後の減少から全く回復に向かっていない状況がデータからしめされています。
おわりに
本レポートでは、「おでかけウォッチャー」にて掲載している「デジタル観光統計(国内版)」から、能登半島地震発生後の日本人観光来訪者数の変化を分析し、以下の点が明らかになりました。
- 1月休日の観光来訪者数は、地震による被害が大きかった能登地域のみならず、北陸や周遊ルートとなる多くの市町村で前年から減少しており、影響が広範に及びました。
- 2月休日はマイナス幅が縮小し、回復傾向にあるものの、富山県・石川県の各地、および坂井市(福井県)や高山市・白川村(岐阜県)など近隣観光地域の一部では2カ月連続のマイナスとなっています。
- その要因として、北陸観光の主要マーケットである三大都市圏(南関東、東海、近畿)や域内・近隣(北陸・甲信越)を発地とする来訪者の減少が特に大きくなっています。ただし福井県では、新幹線開業直前のメディア露出や被災地からの代替もあり、南関東からの観光来訪者が増加しています。
- 石川県において、金沢市でも中旬以降は前年を上回る日もみられるなど、回復に向けた明るい兆しがみえれていますが、他方で、能登地方では未だ回復の兆しすら見えない状況が続いています。
3月16日の「北陸応援割」の開始、そして同日の北陸新幹線金沢・敦賀間開業など、3月は北陸観光にプラスのニュースが相次ぎます。これらを経て、まずは風評被害を払拭し、今後実施されるであろう能登地方の観光復興キャンペーンに向けて、北陸全体を盛り上げ続けることが重要となります。
「おでかけウォッチャー」で提供する位置情報ビッグデータが、これらの観光人流を迅速に把握し、効果を最大化する施策検討の一助となれば幸いです。